アルジェリア情勢 | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

アルジェリア情勢

アルジェリアの人質事件、心配である。

情報が交錯しているが、いくつか気が付いた点を昨日に引き続き書いておきたい。

1)犯行グループ
米英両国を始めとする多くの政府、アラビア語紙等は、犯行グループをアル・カーイダ系の組織、特にハーリド・アブ―・アッバースの率いるモラーセムーン旅団としているようだ。「ベル・ムフタール」もしくは「隻眼」として知られる1973年または1978年アルジェリア生まれのハーリド・アブ―・アッバースは、アフガン内戦参加後、FIS分派のGIAでアルジェリア内戦に参加し、その後マグレブのアル・カーイダに所属したが、内紛で独立した。その後はリビア内戦で大量に出回った武器やたばこの密輸や反フランス闘争で知られ、最近ではマリの勢力とも関係が深いと言われている。これまでの彼らが関与したとみられる誘拐事件に、ここまで大規模なものはなく、身代金目的の者も多かったようである。リビアやマリの紛争に乗じて、勢力を拡大させている様子が伺われる。

2)規模と事件の性質
相当な治安措置を敷いていたはずのガス関連施設を襲撃して多くの外国人を拘束するという大規模な手口は、人質事件の中でも珍しいものである。イラク戦争後の混乱で誘拐事件が多発したが、正面から堅固な警備を突破したのは2003年のクルナの警察署襲撃事件だけであったことからも、この事件の特異さがわかるであろう。アルジェリア軍はメンツをかけて対峙しているようで、アイン・オンム・アン・ナースの施設を包囲し、あるいは報道にあるように攻撃を仕掛けている趣だが、この報道が本当であれば、被害ゼロで済むという希望的観測がかなう確率は低くなるかもしれない。
ハーリドはすでに大きな成果を手にした。政治的要求を行うことで、マリ情勢に国際社会の耳目を集めることに成功し、内紛続きのマグレブのアル・カーイダ系勢力の中で地位を確立できた。単なる密輸やから、闘争の指導者に出世したとも言えようし、今後のリクルートにもプラスになったはずだ。その一方で、彼はおそらく、国外もしくは遠隔地から状況を見ているのであろうが、アルジェリア政府が抱えてしまったダメージと同政府の本気度に鑑みれば、話し合いでの「痛み分け」的な解決をシナリオから排除している危険性も否定できない。
さらに今回の事件は、モラーセムーンの主張にしたがえば、マリの紛争をアルジェリアにおいて表明するという手法になる。「アラブの春」以降、中東・北アフリカ諸国では不安定化が継続しているが、脆弱になった場所において問題が噴出するパターンの先駆になる可能性があり、「弱気に強い」テロリストのやり口が繰り返されないよう、心配させられる。

3)多国籍人質
今回の今一つの特徴は、人質が複数の国にまたがる点にある。つまり、たとえば日本政府が人命優先と言いながらも、単独の政府の判断で身代金を支払えば終わるというようなパターンにはないと言うことである。すでに米国政府などは、人命優先としながらも、マリにおいて断固たる立場を採ることがテロリストたちの基盤にダメージを与えるという点で有効であると主張し、欧州諸国との連携を強めているが、明らかに米国の立場と日本の立場は異なる。欧州訪問をしていたパネッタ米国防長官を欧州諸国説得と連携のために欧州にとどめた米国政府と、欧州訪問中の木内政務官をアルジェリアに向かわせた日本の違いは、この考え方の違いにあるのではないだろうか。

人質の安全を祈念しながら、冷静に情勢を見つめていきたい。