イフタールの晩:シリアのPKOを考える | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

イフタールの晩:シリアのPKOを考える

昨日、イスラーム諸国外交団を集めてのイフタール(断食月における昼の断食明けの食事会)が野田総理主宰で総理官邸において実施されました。多様な宗教の共存と異文化の尊重を総理主宰で実施いただけるのは、外交的な見地からもありがたいことです。


あいさつの後、小生のいたテーブルに総理がお越しになりました。各国の大使たちが「私はモーリタニアから来ました」、「私はジプチから来ました」等と握手をし、小生の前に来られたので、「私は日本から来ました」と冗談を言うと、総理は「承知していますよ」と少しびっくりした様子で真顔で答えてから、冗談と気付いた様子でした。


イフタールの機会に、やはり考えざるを得ないのはシリア情勢です。ゴラン高原の国連兵力引き離し部隊(UNDOF)に派遣されている日本のPKO部隊の期限更新に関し、昨日の午後には、民主党内の内閣・外交・防衛部門合同会議が開催され、小生が内閣部門からの代表として出席してきました。


ゴラン高原のUNDOFは我が国として最も長い期間派遣しているPKOで、現在では唯一二国間の兵力引き離しという伝統的な形態で派遣しているものです。世界一安全なPKOとも言われ、日本の自衛隊員にとってPKO業務を習熟する上で貴重であるばかりか、長期間の貢献は高く評価されてきました。


この貴重なPKOではあるが、シリア情勢が混迷を深める中、期限の更新にあたりその先行きが不安視されている。しかしながら、その判断は冷静であるべきだと考えます。他国の部隊が撤退等の検討を行っているとは伝えられない中で、我が国部隊がやせ我慢をすることは不適切であるが、その一方で過度に反応することも避けるべきであると考えています。


現状ではシリア情勢にもかかわらず、ゴラン高原の部隊に対する安全保障上のリスクが高まっているとは考えていません。第一に、1974年の部隊派遣以来、ゴラン高原の停戦を犯してシリア側から一発の発砲も行われておらず、シリア内政が不安定化したからと言って、シリア政府の政策が変更されることは考えにくい。第二に、ゴラン高原の住民はドゥルーズ教徒およびスンニー派アラブ人で、現状で不安定化しているわけでも、かりに政権が転覆されても報復活動がこの地域で行われるとは思われません。第三に、日本の部隊は、不安定になればイスラエル側に退避することになるが、人けの少なくいまだ地雷の敷設されていることが周知されているクネイトラ、ジウアニ基地、兵力引き離し地域、ファウアール基地という4つのハードルに守られているのです。第四に、ゴラン高原を北部から不安定化させるレバノンのヒズボッラーは、イラン情勢の混迷により兵器等の不足に悩んでおり、現状でシャバア農地等で交戦を始める気配が見られていません。第五に、ゴラン高原付近に関する情報は、UNDOFのみならずUNIFILによっても収拾されており、ダブル・チェックが可能です。第六に、シリアで武装難民が発生しても、彼らは恐怖の対象であるイスラエルの挑戦を承知でイスラエル軍が銃を向けているゴラン高原に向かう可能性は少なく、トルコやヨルダン、レバノン国境に向かうことになるでしょう。


懸念されるのは、現政権が打倒された後であろう。前述の通り、現政権はゴランの停戦を長年遵守してきました。しかしながら、現在の反体制派には求心力が欠如しています。それは、内戦のような形で明確な反体制派が現れた最近の二つのアラブのケース、つまりイラクとリビアの例と比較しても求心力が無く、政権転覆後のスムーズな移管が可能であるかには疑問もあります。また新たな政権は、たとえばエジプトで見られたように内政の不満を外に向ける可能性もあり、イスラエルとの関係次第ではゴラン高原が不安定になる可能性が否定できません。これらの懸念が直接ゴラン高原に直結する蓋然性には議論もあろうが、在シリアの日本大使館機能が失われて情報収集体制が弱い中、国際的なコネクションを使った情報収集体制に力を入れる必要があると考えています。