「防衛計画の大綱」への提言について | 大野もとひろオフィシャルブログ Powered by Ameba

「防衛計画の大綱」への提言について

 今般、民主党の外交・安全保障調査会は、今後5年間の日本の防衛の指針となる「防衛計画の大綱」に対する提言を行った。小生は、中川座長の下、長島、吉良、三村各衆議院議員等とこの提言のとりまとめに主体的に関与した。党内のとりまとめ作業には少数の異論もあったが、太宗の意見が反映され、全体として提言にご賛同いただく結果となった。党内コンセンサスのプロセスを経てまとめあがった提言であり、国民の安全と命にかかわるからこそ、その結果を尊重し、妥協してはならない結論と肝に銘じ、役員会等でも頑張り、中身に留保が付されないままに「党の提言」とあいなった。本提言およびとりまとめプロセスに関する私見は以下の通りである。なお、提言本文については、本日アップしたブログを参照願いたい。


 「基本姿勢」では、本提言の基礎となる原則として、①平和主義と国連の下で国際協調推進、②文民統制と専守防衛原則への立脚、③日米同盟を基軸としつつ、アジア地域における新たな安全保障体制を模索、④新たな脅威に対する国連強調と、自衛隊の海外派遣に際しての武力行使との一体化防止、⑤世界における核兵器の削減・廃絶と北東アジア地域の非核化指向、⑥インテリジェンス体制の整備、が述べられた。①は我が国の国是でもあり、揺らいではならない部分であろう。②は防衛大綱との関連では伝統的な「拒否抵抗機能」を規定し、③は抑止と国際レジームを、また④では非対称的な脅威を含む新たな脅威への対処が強調されるという組み立てになっている。


 前文は、単なる美辞麗句の記述に終えないつもりであった。私は、既に我が国は狭義の意味での軍事・自衛隊力によって守られているのではなく、オール・ジャパンで守られていることに鑑み、総合的な安全保障を打ち立て、安全で安心な日本にすると、選挙戦中を通じて訴えてきた。この発想は、「縦割り行政を超えた政治主導を実現し、外交・防衛・経済・情報を一体とした総合安全保障」という文章に表れている。さらに日本の訴える平和とは、ともすれば国際社会から「一国平和主義」であり、国際社会・国連との強調を訴えつつもリスクの高い部分は避けていくと受け取られてきた。一国平和主義から、我が国の安定を将来にわたり保障し、不安定な東アジア情勢の中で、地域としての安定を構築し、貢献するためには、域内、ひいては国際的で多層的な協力体制・国際レジーム構築に積極的に関与しなければならないと理解する。
 国内的にも、防衛省主導の縦割り行政の中で書かれた大綱や中期防は意味が無く、総合的な安全保障につながるような大綱でなければならないと考え、自衛隊の人員と装備にとどまらない広範な分野に提言を到らせた。そもそも、政治家主導でとりまとめる大綱で人員を具体的に明記することは困難で、行うべきは5年間の安全保障を見据えた「柱」の提言であり、具体的な人員等については、現場の事情を踏まえて、防衛省がこの「柱」に沿ってとりまとめればよい話だ、との発想も背後にある。


 前文に引き続く本文では、①動的抑止力の向上と南西方面への対処、②人的基盤、③装備品の戦略的整備と武器輸出三原則の明確化、④国際平和協力活動への積極的な取り組み、⑤安全保障・危機管理における官邸機能の強化およびインテリジェンス体制の充実、⑥核軍縮・不拡散に関する取組、の6項目に絞って提言させていただいた。


 本文中の第一は、動的抑止力の向上と南西方面への対処である。南西方面を含め、東アジアの安全保障環境に合わせた体制整備が必要であるが、たとえば中国の軍拡と合わせて我が国の防衛費を増強するとすれば、それは非現実的且つ紛争を煽りかねないし、隣国に脅威であると受け止められかねない。また、北海道から南西部に陸上自衛隊を再展開させることも一案かもしれないが、北海道という一大訓練地の代替地を他でただちに確保することは困難であり、これが確保できない場合、訓練が不十分な防衛というきわめて脆弱な安全保障体制になってしまう。そこで、万が一の場合に迅速に対処できるよう、機動力を高めると同時に、警戒監視能力の強化、事前集積の導入等を活用すると同時に、旧式装備は廃棄を進めると共に、統合幕僚幹部の体制を強化し、弾力的運用を進めるよう提言した。また、米軍基地を自衛隊により管理する手法も盛り込み、将来への展望を記した。

 第二は、人的基盤であるが、人件費が高騰している現況に鑑み、若年化と経験の重視のバランスを再検討し、精強な部隊を整備する必要を強調すると同時に、メリハリのきいた人員を提言した。

 第三は、装備品の戦略的整備と武器輸出三原則の明確化である。この項目は新聞等で事実と異なる形で取り上げられ、本文中に一言もない武器輸出三原則の「緩和」、「見直し」等の誤った見出しが躍り、あるいは武器輸出三原則を堅持するか否か、という議論にすらなっていない文脈で捉えられている部分である。そもそも武器輸出三原則は現実的に万全に機能し得ない状況にある。たとえば、PKO部隊の携行品は輸出と見なされるが、三原則中の紛争国や国連の経済制裁対象国への輸出という二つの原則と相容れず、既成事実が原則を乗り越えてしまっている。また、対共産圏輸出規制の部分については、もはや共産圏は存在しない。この不完全になってしまった原則ではあるが、現時点で武器輸出三原則「見直し」という形で取り上げるには、国民の間の理解もまだ得られないであろうがゆえに、それ以外に基準を明確かつ厳格に定める必要があろうと考えた。また、過去においては、佐藤総理が発言したオリジナルの武器輸出三原則、三木首相の発言した武器輸出三原則「等」の部分という時の政府の姿勢に対し、計16回も、官房長官談話等で「穴」があけられ、この「武器輸出三原則等」はきわめてわかりにくく、不透明なものになっている。内外に対して我が国の姿勢を明確にするためにも、時の政府の恣意により行うことができる談話に委ねることなく、明確な基準をとりまとめることが必要と考えた。さらに、現在のルールでは、地雷除去装置や海賊に対する巡視艇に用いる防弾ガラス等の平和構築に貢献することが期待される装備品が規制される一方で、現代の戦いにおいてより多くの人々を殺傷する能力を有するソフト・ウエア等は放置されている。それに加えて、防衛予算に限界がある中で、共同開発や輸出の規制ゆえに調達品の価格が他国のそれと比較して、100倍になっているものすら散見され、国民の命と安全に影響を与えかねない。このような現実を是正し、他国から見ても明確な基準を作り上げるために、三原則に加えて三基準を付加したのであった(武器輸出の3バイ3)。なお、3基準の第三基準は、それぞれのケースごとに法的担保をすることを定めているが、当然、そのたびごとに必要な議論が行われるという意味で、基準に則していても政治的な幅広い意見が集約できる余地を残してある。

 第四は、国際平和協力活動への積極的な取り組みである。時代と共にPKO活動は変化し、あるいは気候変動の中での国際災害協力活動のあり方も変化してきた。かつてPKOと言えば、二つの紛争国の間に入り停戦を監視するようなものが主であったが、今や、破綻国家の中に入り、民政を含めた国家の再建支援等を行うような種類の活動が多くなっている。このような時代の要請の変化に応じきれなくなったPKO5原則にに見直しを加え、現場での必要性に鑑みたものに変化しなければならないとの意識から、提言を行った。

第五はインテリジェンス機能であるが、兵員、配備、装備等が充実しても、シビリアン・コントロールの下でしっかりとした情報と分析が行われ、信頼のおける指示がなされなれば意味がないのは当然である。かねてより私は、日本のインテリジェンスの問題は資源の投下先やその手法よりもまず、情報を扱うトップの体制にあると考えてきた。この部分の問題が解決されなければ、いかに素晴らしい情報がどれだけもたらされても、情報を処理できず、何の役にも立たない。そこでこの提言を防衛大綱に入れさせていただいた。

第六は核の部分である。この項は必ずしも我が国の安全を保障するための項目ではないが、唯一の被爆国としての我が国の立場を明記し、核のない未来への提言として敢えて含めた。人類は愚かにも、核抑止という恐怖のシステムの下でなければ安全を保障できない状況にあることも事実であり、その事実については、米国の核抑止への依存という形で記したが、将来に希望を持ちたいという思いである。


 上記のような思いで書き上げた大綱への提言が、政党間の駆け引きや政局により判断される材料にされることなく、しっかりと国民の命を守るために政府の大綱に反映されることを望んでいる。また、大きな時代変化に対応しきれなかったこれまでの政権の轍を踏むことなく、更なる議論を深めて、政治が役割を果たせるよう努力していきたい。