外郎売

 

 

覚えた外郎売を最初から唱えてみましょう

 

※「外郎売を覚えてみよう」の記事に合わせて、最終的には全文を掲載予定です

 

追記:2024年5月30日全文掲載しました

 

 

拙者親方と申すは

せっしゃ おやかたと もうすは

 

御立合の中に御存知の

お方もござりましょうが

おたちあいの うちに ごぞんじの

おかたも ござりましょうが

 

お江戸を立って二十里上方

おえどをたって にじゅうりかみがた

 

相州、小田原、一色町を

お過ぎなされて

そうしゅう、おだわら、いっしきまちを

おすぎなされて

 

青物町を登りへ

お出でなさるれば

あおものちょうを のぼりへ

おいでなさるれば

 

欄干橋虎屋藤右衛門

らんかんばし とらやとうえもん

 

只今は剃髪いたして

円斎と名のりまする。

ただいまは ていはつ いたして

えんさいと なのりまする

 

元朝より大晦まで

がんちょうより おおつごもりまで

 

お手に入れまする此の薬は

おてにいれまする このくすりは

 

昔、ちんの国の唐人

外郎という人、

わが朝へ来たり、

むかし、ちんのくにの とうじん

ういろうと いうひと

わがちょうへ きたり

 

帝へ参内の折りから

みかどへ さんだいの おりから

 

この薬を深く籠め置き、

用ゆる時は一粒ずつ、

このくすりを ふかく こめおき、

もちゆるときは いちりゅうずつ、

 

冠のすき間より

取り出だす。

かんむりの すきまより

とりいだす。

 

依ってその名を、

帝より「頂透香」と賜る。

よって そのなを

みかどより とうちんこうと たまわる。

 

即ち、文字には、

「いだだき、すく、におい」と書いて

「とうちんこう」と申す。

すなわち もんじには

「いただき、すく、におい」とかいて

「とうちんこう」ともうす。

 

只今は此の薬、

殊の外世上に弘まり、

ほうぼうに似看板を出し、

ただいまは このくすり

ことのほか せじょうに ひろまり

ほうぼうに にせかんばんを いだし

 

イヤ、小田原の、灰俵の、

さん俵の、炭俵のと、

色々に申せども

いや おだわらの はいだわらの

さんだわらの すみだわらのと

いろいろに もうせども

 

平仮名を以って

「ういろう」と記せしは親方円斎ばかり

ひらがなを もって

「ういろう」と しるせしは おやかたえんさいばかり

 

もしやお立合いの内に

熱海か塔の沢へ湯治にお出でなさるか

又は、伊勢御参宮の折からは

必ず門違いなされまするな。

もしや おたちあいの うちに

あたみか とうのさわへ とうじに おいでなさるか

または いせごさんぐうの おりからは

かならず かどちがい なされまするな。

 

お登りならば右の方、

お下りならば左側、

八方が八つ棟、

おもてが三つ棟玉堂造り、

おのぼりならば みぎのかた

おくだりならばひだりがわ

はっぽうがやつむね

おもてが みつむね ぎょくどうづくり

 

破風には菊に桐のとうの

御紋をご赦免あって、

系図正しき薬でござる。

はふには きくに きりのとうの

ごもんを ごしゃめん あって

けいず ただしき くすりでござる

 

イヤ、最前より

家名の自慢ばかり申しても、

ご存じない方には、

正身の胡椒の丸呑、

白河夜船、

さらば一粒たべかけて、

その気味合をお目にかけましょう。

いや さいぜんより

かめいの じまんばかり もうしても

ごぞんじない かたには

しょうしんの こしょうの まるのみ

しらかわ よふね

さらば いちりゅう たべかけて

その きみあいを おめに かけましょう

 

先づ此の薬を、

かように一粒舌の上にのせまして、

腹内へ納めますると、

まず このくすりを

かように いちりゅう したのうえに のせまして

ふくないへ おさめますると

 

イヤどうも言えぬは、

胃、心、肺、肝がすこやかになって、

薫風喉より来たり、

口中微涼を生ずるが如し、

イヤ どうもいえぬは

い しん はい かんが すこやかに なって

くんぷう のんどより きたり

こうちゅう びりょうを しょうずるが ごとし

 

魚鳥、きのこ、麺類の喰い合わせ、

その外、万病速攻あること

神の如し

ぎょちょう きのこ めんるいの くいあわせ

そのほか まんびょう そっこう あること

かみの ごとし

 

さて、この薬、第一の奇妙には、

舌のまわることが、

銭独楽がはだしで逃げる。

さて このくすり だいいちの きみょうには

したの まわることが

ぜにごまが はだしでにげる

 

ひょっと舌が回りだすと、

矢も楯もたまらぬじゃ。

ひょっと したが まわりだすと

やも たても たまらぬじゃ

 

 

そりゃそりゃそらそりゃ、

まわってきたは、廻ってくるわ、

そりゃそりゃ そらそりゃ

まわってきたわ まわってくるわ

 

 

アワヤ喉、サタラナ舌に、

カ牙サ歯音、

あわや のんど さたらな ぜつに

かげ さしおん

 

ハマの二つは唇の軽重、

はまの ふたつは くちびるの けいちょう

 

開合さわやかに、

アカタサナハマヤラワオコソトノホモヨロオ

かいごう さわやかに

あかさたな はまやらわ おこそとの ほもよろお

 

一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、

ひとつ へぎへぎに へぎほしはじかみ

 

盆まめ、盆米、盆ごぼう、

ぼんまめ ぼんごめ ぼんごぼう

 

摘蓼、つみ豆、つみ山椒、

つみたて つみまめ つみさんしょう

 

書写山の社僧正、

しょしゃざんの しゃそうじょう

 

粉米のなまがみ、粉米のなまがみ

こん粉米のこなまがみ、

こごめの なまがみ こごめの なまがみ

こんこごめの こなまがみ

 

儒子、緋儒子、儒子、儒珍、

しゅす ひじゅす しゅす しゅっちん

 

親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、

親かへい子かへい、子かへい親かへい、

おやもかへい こもかへい

おやかへい こかへい こかへい おやかへい

 

ふる栗の木の古切口、

ふるぐりの きの ふるきりぐち


雨がっぱか、番合羽か、

あまがっぱか ばんがっぱか

 

貴様のきゃはんも皮脚絆、

我等がきゃはんも皮脚絆、

きさまのきゃはんも かわぎゃはん

われらがきゃはんも かわぎゃはん

 

しっかわ袴のしっぽころびを、

三針はりながにちょと縫うて、

ぬうてちょっとぶんだせ、

しっかわばかまの しっぽころびを

みはりはりながに ちょとぬうて

ぬうてちょと ぶんだせ

 

かわら撫子、野石竹、

のら如来、のら如来、三のら如来に六のら如来、

かわらなでしこ のぜきちく

のらにょらい のらにょらい

みのらにょらいに むのらにょらい

 

一寸先のお小仏に、おけつまづきゃるな、

いっすんさきの おこぼとけに おけつまづきゃるな

 

細溝にどじょにょろり

ほそみぞに どじょにょろり

 

京の生鱈、

奈良なま学鰹、

ちょと四五貫目、

きょうのなまだら 

なら なま まながつお

ちょと しごかんめ

 

お茶立ちょ、茶立ちょ、

ちゃつと立ちょ茶立ちょ、

青竹茶煎で、

お茶ちゃと立ちゃ。

おちゃ たちょ ちゃたちょ

ちゃっと たちょ ちゃたちょ

あおだけ ちゃせんで 

おちゃ たちょ たちゃ

 

来るわ来るは、何が来る。

くるわ くるわ なにが くる

 

高野の山のおこけら小僧、

狸百匹、箸百ぜん、

天目百杯、棒八百本。

こうやの やまの おこけらこぞう

たぬき ひゃっぴき はし ひゃくぜん

てんもく ひゃっぱい

ぼう はっぴゃっぽん

 

武具、馬具、武具、馬具、

三ぶぐばぐ、

ぶぐ ばぐ ぶぐ ばぐ

み ぶぐ ばぐ

 

合わせて武具馬具六武具馬具、

あわせて ぶぐ ばぐ む ぶぐ ばぐ

 

菊、栗、菊栗、三菊栗、

合わせて菊栗、六菊栗、

きく くり きく くり み きく くり

あわせて きく くり む きく くり

 

麦ごみ麦ごみ、三麦ごみ、

合わせて麦ごみ六麦ごみ

むぎ ごみ むぎ ごみ み むぎ ごみ

あわせて むぎ ごみ む むぎ ごみ

 

あのなげしの長なぎなたは

誰がなげしの長薙刀ぞ

あのなげしの なが なぎなたは

たが なげしの なが なぎなたぞ

 

向こうのごまがらは

荏の胡麻がらか、真胡麻がらか

あれこそほんの真胡麻がら

むこうの ごまがらは

えの ごまがらか まごまがらか

あれこそ ほんの まごまがら

 

がらぴいがらぴい風車

がらぴい がらぴい かざぐるま

 

おきゃがれこぼし

おきゃがれこ法師

おきゃがれ こぼし

おきゃがれ こぼし

 

ゆんべもごぼして又こぼした

ゆんべも こぼして また こぼした

 

たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、

ちりから、ちりから、

つったぽ、たっぽだっぽ一丁だこ

たあぷぽぽ たあぷぽぽ

ちりから ちりから

つったっぽ たっぽ だっぽ いっちょうだこ

 

落ちたら煮てくを

煮ても焼いても喰われぬものは

おちたら にて くを

にても やいても くわれぬ ものは

 

五徳、鉄球、かな熊どうじに、

石熊、石持ち、虎熊、虎きす

ごとく てっきゅう かなぐま どうじに

いしぐま いしもち とらぐま とらきす

 

中にも、東寺の羅生門には

茨城童子がうで栗五合

つかんでおむしゃる

なかにも とうじの らしょうもんには

いばらぎどうじが うでぐり ごんごう

つかんで おむしゃる

 

かの頼光の

ひざ元去らず、

かの らいこうの 

ひざもと さらず

 

鮒、きんかん、椎茸、

定めてごたんな、

ふな きんかん しいたけ

さだめて ごたんな

 

そば切り、そうめん、

うどんか、愚鈍な小新発知、

そばきり そうめん

うどんか ぐどんな こしんぼち

 

小棚の、小下の、小桶に、

こ味噌が、こ有るぞ、

こ杓子、こもって、こすくって、

こよこせ、

こだなの こしたの こおけに

こみそが こあるぞ

こしゃくし こもって こすくって

こよこせ

 

おっと、がってんだ

心得たんぼの、

おっと がってんだ

こころえ たんぼの

 

川崎、神奈川、

保土ヶ谷、戸塚を走っていけば、

やいとをすりむく、

三里ばかりか、

かわさき かながわ

ほどがや とつかを はしっていけば

やいとを すりむく

さんり ばかりか

 

藤沢、平塚、大磯がしや、

小磯の宿を七つおきして、

早天そうそう、

相州小田原とうちんこう、

ふじさわ ひらつか おおいそがしや

こいその しゅくを ななつおきして

そうてん そうそう

そうしゅうおだわら とうちんこう

 

隠れござらぬ貴賤群衆の、

花のお江戸の花ういろう、

かくれござらぬ きせんぐんじゅの

はなの おえどの はなういろう

 

あれあの花を見て、

お心を、おやわらぎやという、

あれ あのはなを みて

おこころを おやわらぎや という

 

産子、這う子に至るまで、

此のういろうのご評判、

うぶこ はうこに いたるまで

この ういろうの ごひょうばん

 

ご存じないとは

申されまいまいつぶり、

ごぞんじないとは

もうされ まいまいつぶり

 

角だせ、棒だせ、

ぼうぼうまゆに、

つのだせ ぼうだせ 

ぼうぼうまゆに

 

うす、杵、すりばち

ばちばちぐゎらぐゎらぐゎらと、

羽目をはずして

今日お出いでの

何茂様に、

うす きね すりばち

ばちばち ぐゎら ぐゎら ぐゎらと

はめを はずして

こんにち おいでの

いずれもさまに

 

上げねばならぬ、

売らねばならぬと、

息せい引っぱり、

あげねば ならぬ

うらねば ならぬと

いきせい ひっぱり

 

東方世界の薬の元締、

薬師如来も

照覧あれと、

とうほう せかいの くすりの もとじめ

やくしにょらいも

しょうらん あれと

 

ホホ敬って、

ういろうは、いらっしゃりませぬか

ほほ うやまって

ういろうは いらっしゃりませぬか