普段、僕と娘は、人も羨むベッタリ親子として日々を過ごしている。実際に羨まれたことはないが、ものの例えだ。

家にいる時間は、リビングで常に二人。お風呂も一緒、寝るのも一緒で、寝入るまで手を繋いでいるほどの徹底振りである。

娘のための部屋はあるにはあるが、荷物置き場になっていてほとんど使っていない。

勉強はリビングのテーブルでするので、子供部屋の学習机は使わない。

寝るときは、広い部屋に二人で布団を並べるので、子供部屋のベッドは使わない。

しかし今回はそんなことを言ってはいられない。陽性と診断された帰り道、娘に言った。

「今夜から一人で、ベッドで寝てもらう。
 お風呂も一人、ご飯も、部屋で一人で食べてもらう。
 昼間もトイレ以外は、なるべく部屋で過ごしてもらう。」

「無理」

「無理じゃない!」

もし僕がコロナに感染したらおしまいだ。娘の食事の支度が出来ないどころの騒ぎでなく、高齢、高血圧、肥満と、重症化リスクに事欠かない自身を顧みると、何がどうなるか予想も出来ず、そうなった場合には、それこそ娘の行末にかかわる。
と娘に言った。

「ご飯が食べられないのは困る」

「分かればよろしい」

月曜日の夜、近づく台風で、暴風雨が吹き荒れる中、娘は、生まれて初めてひとりで部屋で寝た。

熱にうなされて、台風を怖がる余裕もないだろうと思っていたが、翌日聞いて見ると、やはり怖かったのだそうだ。

正直、大人の僕も少し怖くなる激しさの暴風雨だった。
父子、二人ともに忘れられない夜になったと思う。

(つづく)