今日から、娘をスイミングスクールに通わせることにした。


この8月、スクールのキャンペーン期間中に、お試しで数回レッスンを受けさせたところ楽しかったらしい。「このまま続けたい!」と本人が言った。


案外すぐに飽きるかも知れないが、挫折したらそれはその時のことと考え、3日前、正式に申し込みをした。これから毎週土曜日は、スクールに通うことになる。


しかし問題は、娘の泳力だ。スイミングと言うのもおこがましく、現在の娘は全く泳げない。それどころか水に浮くことすらできない状態だ。


コロナ禍で昨年からプールの授業が十分行われていないこともあるが、それだけが原因とは思えない。芳しくない運動神経は、遺伝的に決定されたものであろう。つまり僕のせいだ。


お試しの際も、泳力によってクラス分けされたのだが、全く泳げない乳幼児のグループに、一人、3年生の娘が混じり込んで指導を受けていた。


見ているだけで悲しく、運動神経を決定したDNAのことを思い、その見えないDNAをコロナウイルスと同じくらい憎々しく思った親バカである。


お試しが終わる際に、テストを受けて「級」を決定された。

一級から始まるのか、それとも初級からか。何級になるのだろうと思ったところ、結果はこれであった。




「カメ級」。


「カメ級」がどの程度のものか僕は知らない。が、おそらく自慢できない級なのだろう。有能な人間を「カメ」と呼んだ例を僕はこれまで一度も聞いたことがない。「カメ」は常に、低能力を表すアイコンだ。


「ウサギとカメ」のカメが讃えられるのは、低能力でどうしようもないカメが、腐らずに愚直に頑張ったから、その点だけは評価しようという意味であって、カメの評価は相変わらず低能力なのである。愛娘を「カメ」とは何事か。出てこいDNA。


怒っても仕方ないので、「カメ級」の定義を読んでみた。

  • 「3秒頭まで潜る」

何事か。

ウミガメはもちろん、池で泳ぐカメだって、もっと見事な潜水を見せるだろう。3秒などと言っては、カメに失礼だ。一体どういう級付けをしているのか。さらに詳しく見てみた。

  • 「初級、カニ、カメ、メダカ、クラゲ、キンギョ、カエル、クジラ、ヒラメ、1級、2級、3級…」
ちなみに「初級」は「水掛け」である。風呂か。

カメは、下から3番目の級だ。それは分かったとして、クジラ、ヒラメのあたりなど、順序を疑う。

海底にペタリと沈んでいるヒラメが、大海を回遊するクジラより上というのはいかがなものか。哺乳類と魚類の違いのせいだろうか。やはりDNAか。努力を重ねても所詮、哺乳類は魚類にかなわないとするならば、それは優生思想ではないのか。

それらの動物群を過ぎてから、ようやく人間様の1級、2級が始まるというのも違和感がある。人間よりクジラの方が泳力ははるかに上だろう。人類の驕りではあるまいか。

気になるところは多々あるが、とにかく「ヒラメ」を過ぎるまでは人間扱いされないということで、その間、ずっと劣等感を感じさせられそうだ。

レッスンの成果で、娘が一日も早く「ヒラメ級」になれますように。なんと微妙な目標設定だろう。

どうでもいい級の話が長くなった。

話は戻るが、スイミングスクールに通いたいという話は、実は妻が生きている頃から出ていたものだ。

一年程前、娘のクラスメートにスクールに通っている子がいて、影響を受けて自分も通いたいと言いだした。

その頃僕は、妻の介護と娘の世話で手一杯だったので、スイミングスクールなどとても無理と言って、真面目に考えなかった。

妻は意思表示がほとんど出来なくなっていた時期で、どう思う?と聞いてもあまり反応がなく、そのまま話が流れた。

今年の7月、彼女が家に来たとき、新聞広告を読んでいて、スクールのお試しが1ヶ月わずか1000円程度というのを見つけ、お得だから試してみたら?と勧めてくれた。

そう言えば去年から通いたいと言っていたなと思い出し、ようやく重い腰を上げたという経緯だ。

考えてみると、今通っている公文教室も、亡くなった妻の勧めで始めたものだった。こういうことを自分一人でなかなか決めないのが僕のDNAのようだ。

娘には、よろしくないDNAを乗り越えて、ヒラメと僕を、超えて行って欲しいと思う。