昨日の午後7時42分、入浴中に電話が鳴った。慌てて浴室を出て電話を取ると主治医だった。

「やはり誤嚥性肺炎でした。抗生剤を投与してよろしいでしょうか。」

詳しく聞くと、CRPは9mg/dLだそうで、3ヶ月前のmg/dLよりずっと高い。過去最悪だ。

入院初日に撮影したX線写真にそれほど炎症がみられなかったのは、肝臓の陰に隠れている部分が写らなかった可能性があるなどと説明された。もちろん、抗生剤の投与をお願いしますと伝えた。

入院のきっかけは、9月23日早朝に、痰が絡んでサチュレーションが低下し、呼吸に雑音が混ざり出したことだ。往診してくださった訪問医は即、誤嚥性肺炎と判断された。

ところが救急搬送された現在の病院では、誤嚥性肺炎はさほど心配なく、CO2ナルコーシスを改善するのが先決と言われた。入院初日のCRP値が1mg/dLと低かったので、病院の判断ももっともなのだが、今になってみると、少しでも早く抗生剤を入れて欲しかったと思える。

一夜明けて、今日の午前6時18 分、再び病院から電話がかかってきた。呼吸と血圧が低下して危い状態なのですぐに来てほしいという。

慌てて娘を起こして、義母にも電話で連絡し、着替えていたら、5分後にまた電話が鳴った。

回復して来たので慌てなくて大丈夫です、ということだった。ほっとしたが、様子が気になるし、早朝の今なら娘を病室に連れて来てもいいと言われたので、そのまま病院に向かった。

コロナ禍の面会制限で、入院以来、娘はママに会えずにいた。病室に入った娘は、ベッド脇に立つと、ママの胸のあたりを押さえて言った。

「肺炎だからここをなでてあげたい、押さえたら悪くなる?」

「そのふわふわした手で押さえるのなら大丈夫だよ」と答えたら、娘は、一心にくっ、くっ、と胸を押さえだした。娘式人工呼吸だろう。

入院の日、午前7時半過ぎに救急隊員の方が担架を持ってマンションのエレベーターを上がって来た。ちょうど娘が登校する時間と重なってしまったので、僕が妻に付きそい、すれ違うように義母が娘を送り出した。後できくと、娘は、通学班の集合場所に着いた後、

「ママが救急車で入院しちゃった!」

と言って泣いたそうだ。それまでは泣くのを我慢していたらしい。妻の病気に関わって一番、我慢を強いられているのは間違いなく娘だ。

現在、入院先で担当してくださっている看護師さんは、話が的確で、とても頼れる方だ。気管の奥に痰がずっと絡まっていて取れなかったが、今朝、吸引機のカテーテルがようやく気管にヒットして、かなり取り去ることができたそうだ。

しかし、気管にカテーテルを入れて吸引すると、その間しばらく息が出来ないため、サチュレーションや血圧が一時的にかなり低下する。そこからの回復が良くなかったため、電話連絡してくれたということだった。

僕も経験があるのでよく分かる。気管にヒットすると、今しかないと思って痰を取り切りたくなるのだが、手早く終えないと、みるみる顔色が青紫になって、チアノーゼの状態になる。しかし、痰は取ってあげたい。少し頑張って吸引を続けるか、安全のために吸引を切り上げるか、本当に迷うのだ。

今後も痰を吸引する度に、一時的にサチュレーションや血圧が下がることがあると思うが、その度にしっかり回復してくれるか心配だ。いつか回復できないときが来るかもしれない。今も、回復に時間がかかっているということは、それだけ体力が弱っているということなのだろう。

あらためて誤嚥性肺炎と診断されると、つい先日まで10日間あずけたショートステイのことが悔やまれる。

ケアの記録の中に

「流涎多量、誤嚥している」
「首後屈にて唾液、気管に入っている」

といった記録がいくつもあった。首後屈というのは、椅子に座っていて、頭がガクッと後ろに垂れて自力で戻せなくなってしまった状態だろう。そのままの姿勢で唾液に溺れている妻を想像すると、本当に悪いことをしたと悔やまれてならない。家にいたらそんな風にはさせなかったのに。

また、

「壁をドンドンと足でける行為あり。注意すると一旦やめるが、又同じことを繰り返す」

という記述があり、重度訪問介護で入ってくださっているヘルパーさんが、

「これはない」

と言われていた。壁を蹴るのは訴えたい気持ちがあってのこと、そこを探らずに、上から「注意する」というのは、ヘルパーとして絶対あってはいけないことです、と言われた。

何となく、レスパイト入院で病院の殺風景なベッドに何日も押し込めるより、ショートステイの方がまだ、馴染み安いのではないかと思った。しかし、医療的ケアの比重が大きい妻の場合、レスパイト入院の方が適切だったのかもしれない。今回、入院させていると、ショートステイのときのような胸騒ぎは感じない。

あるいは、重度訪問介護の認定があと一ヶ月早ければ。結局、重度訪問介護のヘルパーさんに入っていただいたのは、これまでにわずか4回だ。今週から、入ってもらえる日がぐっと増える予定だった。もう少し早ければ、ショートステイにあずける必要もなかったかもしれない。

誤嚥性肺炎か、そうでないかと二転三転したり、これまでに色々な掛け違いがあったように思える。振り返って思うことだし、時間は巻き戻せないので仕方ないのだが。

少なくとも今夜から、出掛ける支度をして、着替えを枕元に置いてから寝ようと心に決めた。これ以上、掛け違ったり、すれ違ったりしないように。