妻は夜、睡眠薬と安定剤のせいで、全身脱力してグダグダ、ダラダラになってしまう。

その脱力した妻を車椅子でトイレに連れて行く介助を、今夜はこれまでに6回させられた。

ベッドから車椅子に移し、トイレに運んで、ズボンと紙オムツを脱がせ、着座させるのを、ほぼ100%介助者の力で行わなければならない。

特に大変なのは、スボンと紙オムツを脱がしたり履かせたりするときで、自力で立つことができないので、頭をトイレの壁に押し付けるようにして体重をあずながら行うのだが、力がいるだけでなく、今にも崩れて転倒しそうで、本当に辛い。

便座や車椅子への着座も、座らせる位置が少し浅いと、ズルズルと床へ身体が滑り落ちてしまい、そうなったときには引き上げるのに渾身の力を要する。

この1〜2週間、そんなトイレ介助をさせられたせいで、僕は両腕と腰をすっかり痛めてしまった。

妻に、一晩に何度も介助するのはとても無理だから勘弁してくれと頼んでいるが、どんなに頼んでも首を横に振るばかりで受け入れてくれない。紙オムツで用を足す気などさらさらなく、僕がどんなに辛そうに介助しようが、悪態をつこうが、意に介さない様子だ。これも前頭側頭型認知症のせいだろう。相手のことが気にならないのだ。

ここしばらくで、妻はあらゆることに我慢がきかなくなってきたように思う。ベッドに大人しく寝ていることもできなくなり、何かしたいと思い立つと、すぐに自力でベッドを降りるようになった。

しかし、しっかり降りられるはずもなく、ベッドから足を出して、下半身だけ床に滑り落ちたような形で固まっている事が多い。

床にはジョイントマットが敷き詰めてあるので、身体をひどく打ちつける心配はないが、苦しい姿勢のまま立ち直れずにいるのも危なかしくて仕方ないので、数日前からベッドまわりの柵を取り付けることにした。

しかし問題があって、柵を付けた代わりにベッド脇の呼び鈴を取り外さなければならなくなった。柵と干渉してしまうのだ。

呼び鈴がないため、妻はトイレに行きたい合図に、介護ベッドの柵や壁をガンガンと蹴るようになった。

今夜6回目の介助になったさっき、もううんざりして無視を決め込んでいたが、ガン、ガン、ガンと、実に15分間蹴りつづけたので、こちらが根負けした。とにかく、妻が一旦トイレに行くと決めたら介助者は否応なく従わねばならないのだ。

腰が痛い。とても無理だと思っても、拒否する権利はない。無理、頼む、許してくれ、と訴えても、妻は意に介さずに首を振る。

介助2、3回目までは時間が早かったので、そんな様子を娘が見ていた。

「もう、これまでのママの病気のこと、学校の教壇の前に立って全部話したい!みんなに分かってもらいたい!」

娘が泣いた。

ここまで厳しくなったのは、ここ1〜2週間だ。土曜、日曜のワンオペ介護は、毎週、確実に負担が増している。今週も、始まる前から気分が憂うつだった。

例えば夜間のヘルパーさんが入ってくれたとして、こんな重労働の介護をしてくれるのだろうか?いくらなんでも無理じゃなかろうか。

やや途方に暮れている。