このところ痰吸引のことを何度も書いているが、その他にも、妻の体調で気にかかっていることがいくつかあるので、書きまとめておこうと思う。

まずは、睡眠について。

最近妻は、痰吸引で体力を消耗するため、昼寝をするようになった。バイパップに酸素吸入器を取り付けて装着し、1、2時間ほど寝ると呼吸が安定する。訪問医の先生からも、昼間のバイパップは肺の筋肉を休ませるのに良いと言われており、1日1、2回は、そうして昼寝をしている。

しかしそのせいもあって、夜の寝付きが悪くなってしまった。もともと昼寝をする習慣が全くなかった妻なので、リズムが崩れたようだ。

先週あたりから、本人が、寝付きを良くするために精神安定剤を使いたいと言いだした。精神安定剤は、診断直後の頃に不安を和らげて眠れるよう処方してもらったものがあり、飲み残した分を保管してある。しかし、当時も注意されていたことだが、精神安定剤には筋弛緩作用があって、ALSにはあまり良くないそうだ。

訪問医の先生に相談したところ、睡眠中に呼吸低下が起こる恐れがあり、勧めないが、バイパップを付けているのでおそらく大丈夫だろうくらいのニュアンスだった。

やむを得ず寝入りに1錠、胃ろうから入れてみたが、それだけでは眠れない。夜中にチャイムで呼ばれ、もう1錠入れてくれと言われた。

入れる、入れないとしばらく押し問答したが、実際僕も、妻に寝てもらわないとまともに睡眠が取れずに、仕事に差し触る。

また妻は、眠れないと色々なことが気になるようで、例えば指にサポーターを付けてくれとか外してくれとか、スマホの充電器を繋いでくれとか、唾液を受けるタオルを変えてくれとか、わりと細かい用事で、頻繁にチャイムを鳴らしてくるので、都度、起きねばならず、僕もなかなかにしんどい。

それで結局、合わせて2錠の精神安定剤を入れてみたが、多少眠れたものの、今度はフラフラになってしまって、トイレに付き添ったときには立って歩けなくなってしまった。

幾日か、似たような感じで精神安定剤を使い、ある日などは、もう眠れないからと、午前3時に起きると言い出し、リビングに座ってアニメを観始めた。起きると言われても、一人では起きられないから、結局あれこれ手伝うことになるし、痰を取ったり最低限の世話はついてまわる。

幸い、調子の良い日もあるが、そんなわけで最近は、妻が眠ってくれることを祈りながら自分も床に就く日々が続いている。

次に、吐き気について。

この2週間くらいの間、妻が経管栄養を入れるたびに吐き気を催すようになった。調子の良いときもあるが、悪い時が少し長引いており、栄養の注入量も、いつもの5分の3くらいに減っている。

訪問医の先生に診察してもらったが、風邪の類ではないらしい。
ALSの方は、一般的に胃腸の動きが低下して、あまり食べられなくなることが多いのだが、それが胃腸の筋萎縮によるものかどうかは分かっていないということだった。

どうしても気持ちが悪いときには、一旦注入した栄養を、再びシリンジで吸い出して抜き取っている。

看護師さんのアドバイスではじめてみた抜き取りだが、どうも、胃ろうから胃の中の内容物をスッキリ取り出すことは無理というのが良く分かった。

胃ろうの取付位置より水面が上の部分は吸い込めるが、水面が低いと、どんなに頑張っても吸い込めない。そのため、吸い込みが上手く行くと効果が高いが、ダメなときはダメな場合がある。

とりあえず先生から、漢方薬の「茯苓飲合半夏厚朴湯エキス顆粒」を処方してもらい、様子を見ることになった。栄養摂取の問題は切実で心配だ。

痰の件に比べて、睡眠も吐き気も、小さな問題に思えてしまうが、本当はどれ一つとっても大事な問題だ。よく次々と大きな問題が起こるものだ。

今日、小学二年生の娘がはじめて、

「ママに死んでほしくないな」

と口に出してつぶやいた。

「そんなわけないよ」とも言えず、「ほんとにそうだね」と言って、娘の手を握った。

娘は、 

「ママどうしたら治るのかな?
 しょっちゅうトイレに行くのをやめたら治るのかな?」

と続けた。

娘は、僕と義母が、妻の頻尿に音を上げているのを、よく見て知っている。おそらく、僕と義母が交わす会話のニュアンスも聞き知っているのではないかと思う。

大きな問題も小さな問題も、解のないものばかりだ。
妻が今夜、朝までよく寝てくれますように。