29日金曜日の夜半、妻は、あわや入院かという状態になった。

結局入院はしなかったが、ALSに風邪の症状が重なったせいか、とにかく痰が絡みやすい状態が続いている。

順に書いて行こうと思う。

金曜日の午後6時過ぎ、職場にいた僕のところへ、妻からLINEが入った。痰が絡んで激しくむせたと言う。

午後7時頃に帰宅すると、むせは治まっていたが、痰は一向に取れない様子だった。早速、カフアシストや吸引器を何度も試したが、改善しない。

やがて治まるだろうと考え、胃ろうの注入や入浴などを済ませたが、治まらない。床に就いたあとも、何時間経ってもぜいぜいと苦しそうで眠れない様子だった。

午後11時過ぎ、思い切って訪問看護ステーションに連絡し、看護師さんに来ていただいた。

看護師さんは、鼻から喉の奥へカテーテルを入れて痰を吸引してくださった。お陰で状態が良くなったが、一安心したのもつかの間、5分もするとまた痰が絡んできた。

幾度か吸引を繰り返したが、吸引直後にはSpO2が90台に回復するものの、しばらくすると80台に戻ってしまう。何度やっても同じだった。また身体の負担のためか、血圧、脈拍も上昇気味だった。

午後12時過ぎ、看護師さんから訪問医に電話相談してもらった。訪問医の先生は、入院するか、家で家族がこまめに吸引するか、どちらかしかありませんねと言われた。

僕はこれまで、鼻から喉の奥へカテーテルを入れたことがなく、そもそも家には太目の12mmのカテーテルしかないので、とても自信がなかった。

やむなく入院を決意し、バッグに下着や洗面具などを詰めたりした。

しかしその後、訪問医の先生が来てくださった頃にはSpO2がやや持ち直し、なんとか90台になった。この数値なら入院にならないだろうと言われ、自宅で休むことにした。

先生が帰っていかれ、気づくと午前2時をまわっていた。

翌日は土曜日だが、授業参観日のため、娘と僕は朝から学校に行かねばならなかった。

僕は2時間ほど寝て、4時過ぎに起きた。妻も同じ時刻に部屋から出てきたが、結局眠れなかったようだった。

妻の熱を測ると37.5度で、平熱が低く35度台も珍しくない普段からすると、かなり高い体温だった。

ALSで発熱があったとき、最も注意しなければならないのは誤嚥性肺炎だ。妻はここしばらく口からの食事はしていないが、唾液を誤嚥して気管に入れてしまうことで誤嚥性肺炎が起きることがあるらしい。もしそうなら放置できない。

解熱剤のカロナールが家に残っていたので胃ろうから注入してみた。以前、もしそういうことになったらまずは解熱剤を使うよう看護師さんから聞いていたからだ。

間もなく熱は下がり、痰の絡みも若干マシになったようだった。すぐに熱が下がるようなら少し様子を見てもいいと、やはり看護師さんが言っていた。

午前8時頃、義母が来てくれたので、妻を任せて娘と僕は学校に出掛けた。眠気はひどかったが、授業参観はなんとか終えることができた。

なんと言うか、辛い1日だった。妻はもちろんだが、僕も睡眠不足がとてもこたえた。

今日、日曜日も、妻は決して楽そうではない。昨晩もほとんど眠れなかったらしく、朝からずっと痰が絡んでいる。

昨日、10mmのカテーテルを看護師さんが持ってきてくださったので、鼻から入れてみようとしたが、妻が痛がるため、まだできていない。看護師さんにコツを聞いておけば良かった。

明日、娘は、土曜日の出校の代わりに1日休みになる。僕は普通に仕事なので、妻と義母に娘を任せて出勤するしかない。

実は今回、訪問医の先生との会話で「気管切開」という言葉が初めて出た。

11月に入ってから、夜寝ていても唾液でむせることが多くなり、バイパップを付けて寝ることが難しくなってきた。

低圧持続吸引器で唾液を持続吸引すると良いのだが、妻によると持続吸引器ではどうにも唾液が取り切れず、結局タオルで受けないと難しいのだそうだ。また、バイパップの口鼻マスクとともに持続吸引のカテーテルを口に差し込むのは楽ではない。

そういった話をあらためてしたところ、訪問医の先生は、持続吸引が出来ずバイパップが使えないとなると「気管切開」が必要になって来ますと言われた。

差し迫って勧められたわけではないが、その言葉が先生の口から出たのは、やはりインパクトがあった。

これまで妻と気管切開のことを話し合ったことは一度もなかったが、この機会にと思い、

「いざとなったら気管切開する?」

と聞いてみた。妻はすかさず首を振った。
僕はこんな場合の受け答えに全く相応しくないが、

「もしかしたら長く一緒にいられないかもね」

と言ってしまい、妻が泣いた。あわてて、3人ずっと一緒だもんねと言った。

食事の楽しみを奪い、眠りの安らぎすら脅かす病が本当に憎い。風邪が治って少しでも良くなることを祈る。