保健所に地区担当保健師という方がいるらしい。

3日前に、その保健師の方から、わが家を訪問したいと電話があった。家庭訪問をして療養上の悩み相談に応じてくれるのだそうだ。

が、しかし。

行き違いか、巡り合わせの悪さのせいだと思うが、保健師さんとのやり取りに若干モヤモヤしたものを感じ、ちょっと微妙な気分になっている。まだ、実際に訪問されたわけでもないのだが。
 
話は数カ月前に遡る。
特定医療費受給者証の更新手続きのため保健所に行った。
 
勤め人である僕は、保健所に出掛けるためには休みをとらねばならず、ちょっとした負担だ。毎月、妻の通院に付き添う日に1日休むので、他の用事も出来るだけその日にまとめてこなしている。保健所に出向いたのもそんな中のことで、時間に余裕はなかった。

あらかじめ書類を整えておいたので、受給者証の更新手続き自体は、ほぼ1分で済んだ。さあ帰ろうと思ったところを保健所の職員さんに引き留められ、5分でいいから時間をいただけませんかと言われた。そうして面接してくださったのが保健師さんだった。
 
保健師さんの話を要約すると、
 
・難病の方やご家族の方が申請に来たときに、声をかけて療養相談の案内をしている。
・近々連絡してご自宅を訪問したい。
・本来もっと早く声をかけるべきでしたが、遅くなりました。窓口に来られる機会がなかったので今日になってしまいました。
 
このくらいの内容だった。
しかし最後の1点は、若干引っ掛かった。
 
「窓口に来られる機会がなかったので今日になってしまいました」というのは、どういうことなのだろう。

1年前、特定医療費受給者証の申請をした。
今回、1年振りに更新で窓口に出向いた。

本当は1年前に声をかけるべきところを、窓口に来ないから1年間放置していましたという意味なのだろうか?更新の機会でもなければ、保健所に来る用事などないのが普通だと思うが。

 まあ、言葉のあやをとやかく言っても仕方ない。むしろ困ったのは次の一言だ。

「奥さんの具合はどうですか?」
 
こういった問いかけはしばしばされるが、かなり応答に困る。ALSの場合、具合がいいなどということはあり得ないからだ。

身内、ごく親しい友人、医師や訪問看護師さんなど、状況を知ってくれている方には、最近の変化点について話すが、挨拶程度に聞かれた場合には、

「症状が1つでないので、悩みがつきないですね。」

といった感じで、ざっくり答えて終わっている。

保健師さんにどう答えるか一瞬悩んだが、とりあえず挨拶程度の返事をして、また今度本人の様子をみてくださればと言ってみた。

すると保健師さんは、明らかに困ったような顔をされた。やはりあれこれ話さないといけないのか。
 
仕方なく、発症から現在までの病状の変化を一通り話した。

すると保健師さんは、訪問看護サービスを受けられてはどうですかと話し出した。

いやいや、もう訪問看護は受けてますと言って、訪問診療、訪問看護を受けている状況とともに、障がい者認定、介護認定のクラス、介護機器のレンタル状況等も話した。

更に家族構成のことも問われたので、娘が小学1年生であることや、自分と近所に住む義母が協力していること等も話した。

結局、面接した時間は、軽く15分を超え、ひととおり全部話した感じになった。丁寧と言えば丁寧だが、そうであれば、最初から状況を詳しく聞きたいと言って欲しかったところだ。

保健師さんは、後日、日程のことでもう一度電話しますと言われ、その日の話はそこで終わった。

ところが、すぐに連絡が来るのかと思いきや、いつになっても電話が来ない。2ヶ月以上過ぎて、ようやく電話があったのが3日前だ。

保健師さんは、日程調整について話した後、例の質問をしてきた。

「奥さんの具合はどうですか?」

何だか面倒になって、

「良くないですもちろん」

とやや、つっけんどんに答えた。すると続けて、

「今困っていることはありますか?」

と聞かれた。

困りごとはあるに決まっている。しかし、スマホでこの電話を取ったとき、5時はまわっていたものの、僕は職場の机に座っていた。

「それは色々ありますが、また今度、訪問のときに」

「例えばどんなことがありますか」

どうしても聞くつもりか。

「食事がほとんど取れず、最近は、ほぼ全部胃ろうになったことなどが悩みです」

すると保健師さんは、

「胃ろうから栄養を取って、楽しみのために一口、二口、口から美味しいものを食べる方法もあります」

と言われた。
言われるまでもない。知っている。

「身体の状態はどうですか」

どうしても聞くのか。

「左手はほぼ動きません、右手もほとんど力がありません、歩けますがぎこちないです、会話はできません、食べれませんし飲めません」

職場の机に座ったままで、まわりにはまだ同僚がいる。まぁ皆、妻の病気のことはある程度知っているので構わないが。

「他に困ったことは?」

「手足の稼動域は保たれているという理由で、上肢、下肢の障害者認定を受けていません。構音障害4級では難しいと言われ、障害年金も受けていません」

「繰り返し、主治医に訴えていってください」

言われるまでもない。

「日程調整だけかと思ったら、あれこれ聞かれますね。訪問のときはどんな話があるんでしょうか?」

今度はこちらから聞いてみた。

「大体、今みたいな感じです」

まじか。
では、電話で十分じゃないか。

実は、今回の電話の最初に、僕が、こちらの仕事の都合でその日は無理と言ったとき、保健師さんがこう言った。

「ご主人が立ち会われなくても、訪問看護の方から話を聞くだけでも結構です」

これには耳を疑った。一体、誰のための療養相談なのか。

これだけは強く否定し、妻が会話できませんので私が立ち会いますと言い切った。

しかし電話の終わり頃には、貴重な年休を使うほどではなかったかも知れない、どうでも良かったかなと後悔した。

最初の面接のとき、保健師さんは「本来もっと早く声をかけるべきでした」と言っていたが、確かにそうかもと思った。

早い段階であれば、手続きのことなど相談することはあったように思う。

しかし診断から1年以上過ぎ、ケアマネさんや訪問看護さんになんでも相談できるようになった今、保健所の保健師さんの関わりが必要なのか分からない。

コミュニケーションツールの案内もしてくれると言っていたので、それだけは期待している。家庭訪問が意義あるものであると有り難い。

ここまで読んでくださった皆様、あらかじめ断りもなく大変な長文になり申し訳ありませんでした。