妻がブログに栗きんとんのことを書いていたので、僕も書いておこうと思う。
僕が岐阜の栗きんとんを初めて食べたのは、30歳を過ぎてからだった。妻と結婚した後のことだ。
岐阜の秋の味覚などと聞いてはいたが、さして興味もなく、それまで口にすることはなかった。おせち料理の栗きんとんを想像していたことが大きい。
それだけに、最初の1つを食べたときの驚きはかなりのものだった。おせちとの共通点は名前だけで、他には1つもない。これが本当の栗きんとんかと思い知った。
ほんのひとつまみの大きさで200円強の値段だから、高級菓子と言える。というか高級菓子だ。しかし食べてみるとその値段も当然と思える。
妻と意見が一致して、中津川市に栗きんとんの食べ比べに出掛けたことがある。7歳の娘が生まれる前のことだ。
川上屋、すや、の二店が有名で、他にも何店かある栗きんとんの店を歩いて買い回り、公園のベンチで食べ比べた。
その日は祝日で、この街の風習なのか、どの家も玄関先に国旗を掲げていて壮観だった。
さして必要ない、無駄な理由で遠出したのが楽しかった。
食事というほど満腹にもならない高価な菓子を、丁寧さもなく雑に食べ比べたのが楽しかった。
何より、妻と一緒に、そういう必要のないことをするのが楽しかった。一人では面白さもなかったろう。
その後娘が生まれ、栗きんとんとはしばらく疎遠になっていたが、昨年の9月に数年振りに買いに出掛けた。
ALSの疑いが濃厚になり、診断直前で、絶望的に落ち込んでいた時期だった。
妻は元気を失っていて、あまり気乗りしない様子だったが、甘くて柔らかいから娘もきっと気に入るよと言って、やや無理に連れ出した。
「美味しい!」
娘は、案の定大喜びした。
栗きんとんは秋の味覚で、食べられるのは9月~12月に限られる。それから年末までに、娘にせがまれて数回食べに出掛けた。
僕は、昨年のその頃、昔の楽しかった思い出をもう一度たどって、確認しておきたい気持ちがあったように思う。そうしておかなければ後悔するような気がしたのだ。
そして今年。
先週になって娘が急に栗きんとんが食べたいと言い出した。
「秋しか食べられないとパパが言ってた。
今は秋だから食べられるんじゃないかと思って」
確かに栗きんとんは9月から始まっているが、特に教えたわけでもないのに本当に自分で考えたのか?あるいはテレビなどで紹介していたのかもしれないが、とにかく当たっているのは確かなので、よし行こうと約束した。
下道を走ると片道一時間半から二時間かかる。高速を走れば30分くらいは時間が縮まるが、どちらにしても今の妻には少々負担だ。最初妻は、家で寝ていると言っていた。
が、直前に同意してくれ、家族三人に義母を加え、四人で出掛けた。
栗きんとんは、すりつぶされているので咀嚼は問題ないと思うが、口に入れると散らばって歯に張り付いてしまう。舌で舐めとれればいいが、舌の力が弱っているとそうもいかない。妻にとってあまり食べ易くはないようだ。
昨年は食べられたが、今年はひとつ食べ切ることはできなかった。それでも少しは口に入れることができたようだ。
娘も義母も、もちろん妻も喜んでくれ、人に問われたとき、親子三代にわたる栗きんとんファンですと答えられる自信がついたというのが今回の記事の結論だ。
そこがポイントか?と思われるかも知れないが、このように必要のない、無駄な記事を書いていること自体が幸せだと思うので、それでいいのである。