もう5日前のことになるが、日曜の夜、布団に入った時に、娘が話しかけてきた。

「ママ、入院した頃は、全然ヤバイと思ってなかったんだよね」

ちょっとドキッとして、あわてて聞き返してみた。

「今はヤバイと思ってるの?」

「うん」と娘は答えた。

娘は小学1年生。まだまだ添い寝が必要で、僕が布団を並べて寝ている。寝る前に布団の中でしばらく話すのが日課だ。妻は、介護ベッドのある別の部屋で寝ている。

このブログにもしばしば書いているが、娘は娘なりに何かを考えていて、ママの病気のことは滅多に口に出さない。こんな風にストレートに話しかけてきたのは初めてに近い。

妻は昨年10月の診断以来、3回入院している。しかし当然ながら、病状は改善していない。

娘は今年の始め、ふとした折りに、

「ママ、入院しても治らなかったんだ」

と口に出したことがあった。あ、分かっているんだなと思った瞬間だった。

何度入院しても一向に回復しない様子をみて心配しているのだろう。

「いつ頃治るのかな、注射何回も何回も打ってるのに、100回くらい打たないとダメなのかな」

娘は、答えづらい問いかけをしてきた。
僕は、akikoさんから聞いたことがある言い回しを使って答えた。

「なかなか難しいみたいなんだ。先生が今、治す方法を一生懸命考えてるんだって」

「いつ治るのかなあ、6年生か中学生くらいかな」

6年生や中学生は、娘が考える精一杯の遠い未来なのだと思う。時間がかかることを察しているようだ。

「そうだね、そのくらいかかるかもしれないね。」

平静を装って、そう答えたら、娘は驚くでもなく「ふうん」と言った。

「それまでママを応援しようね」

と続けたら、

「うん!」

と答えてくれた。

それから娘は、病気のことでママに怒ったことはないという話をしてきた。ママの言葉が聞き取りづらくて困ったときにも怒ったことはないという意味だろう。

「他のことで怒ったことはあるけどね」

先日もゲームが思ったようにできなくてママに癇癪をぶつけたと聞いている。しかし僕が知る限り、病気に関して駄々をこねたことは確かに一度もない。

「あんまり聞き返したら悪いから」

言葉が聞き取れないときにも遠慮しているらしい。

娘の中に、子供らしい勝手さと気遣いの気持ちが同居しているのはしばしば感じるが、なんというか不思議だ。

「あの頃(元気だった頃)みたいにママとお話ししたいな。もう一度、元気な頃のママを見たいな」

娘はさらに、そんな風に続けた。僕も、そうだね、ほんとにそうだねと繰り返した。

「ママが半分でも1%でも、3%でも治ってくれたら嬉し泣きしちゃう!そうしたらもうオモチャも何もいらない!」

と言い、少し考えてから、

「安いやつしかいらない」

と言い直した。安いか高いかは、パパがしっかり見てね、だそうだ。

病気について、大体そのくらいの会話をしたあと、遊園地に行きたいので、ママをお留守番にして二人で出掛けようといった約束をした。

娘がなぜ、急に病気のことを話しかけて来たのか少し不思議だった。夏休みが始まった影響かとも思ったがおそらく違う。

この日、僕が自宅で仕事をしていて、家事と娘の相手の合間にパソコンを使い、忙しそうにしていたのが原因だと思う。

僕は、前日の晩も仕事で睡眠時間を削っており、疲れた顔をして、そういう態度を見せていた。そのせいで妻にも嫌な気分を感じさせてしまった。娘もそのあたりの空気を感じたのだと思う。

おそらく娘も、楽しく過ごしていれば、ママの病気のことをそれほど意識しないのではないかと思う。意識するのはやはり、多少なりと気分が沈んだ時ではないか。

ここのところ仕事の合間がなく、ブログの更新もとどこおった。少し区切りがついたのでこの週末は、先週より良いと思うが。

夏休みに入った娘の世話を、病気の妻に任せてしまっている。

自転車に乗る練習や、プールに行くこと、盆踊りなどなど、娘がやりたがっていることはたくさんある。

せめて週末は、妻と娘のためにサービスしたいものだ。