毎朝4時半に起きて、家族3人の朝食と自分の弁当を作っている。前後して、洗濯物の取り込みと簡単な掃除をし、痰吸引やバイパップの機器の手入れなどもしている。
 
それら全て含めても6時過ぎには終わるのだが、出勤するまでの間にもうひとつしなければならないことがある。それは娘の身支度だ。
 
まず、なだめすかして娘を起こさねばならない。娘は簡単に起きようとしない。
 
「疲れて起きれない」
「無理」
「だらだらしたい」
「さむい」
 
娘が順不同で発するこれらの言葉にほとんど意味はない。応えもせずに布団をめくる。
 
「まぶしくて死ぬー」
 
死なん。
敷布団を半分に折り畳んで、娘をサンドイッチにしたり、テーブルクロス引きよろしく、布団を引き抜いて娘を畳に落としたりして、虐待にならない範囲でたたき起こす。
 
娘は、さかまつげの診断を受けており、朝晩、角膜を保護する目薬を点すのだが、点そうとすると、また無駄語の応酬になる。
 
「タブレットで遊びたい」
「動画みたい」
「リカちゃんごっこする」
「テレビつける」
「ぬいぐるみがないとふわふわしない」
 
覚醒し、意識レベルが上がると、娘の無駄語のボキャブラリは増える。
ごちゃごちゃ言わずに、目薬か、トイレか、着替えのどれかをして欲しいところだが、して欲しいことはしてくれない。
 
困ったときにはママを引き合いに出す。
 
「目薬をささっと点すと、ママがほめてくれるよ」
「わかった、やる!見てママ出来たよ!」
 
という感じだ。

目薬のあとは着替えだ。娘に言ってみる。

 
「着替えて名札をつけて髪をしばらないと、パパは仕事に行けないからさ、早くしてよね。」
 
名札を安全ピンでつけるのは、両手を使うし、ちょっと力がいるので、妻でなく僕がする。娘がパジャマを脱いで着替えてくれなければ名札はつけられないが、なかなか着替えてくれない。
 
髪をしばるのもやはり着替えてからだ。さらに、1つでしばるか、2つでしばるか、三つ編みにするか、留めゴムはどれを使うかなど、娘の希望を聞いてから決めねばならない。
 
なんとかだましだまして、髪をしばり始めるが、大体、男の僕が器用に髪をしばれるはずもない。時間がかかったりやり直しをしたりすると、文句が出るが、娘も長くじっとしていてはくれないので結局時間がかかってしまう。
 
髪をしばり終えて、よし出勤だと思い時計を見ると7時を過ぎている。目薬を点して着替えさせ、名札を付けて髪をしばるだけでなぜこれほど時間がかかるのか分からないが、大体毎日そのくらいの時間になる。
 
今年の春頃、僕が髪をしばるようになってから、同じ年頃の女の子の髪形を以前より注意して見るようになった。
 
綺麗に編み込まれた髪を見ると、娘を布団からたたき起こすところからはじまる一連の流れを連想し、このお宅ではどれくらいの時間をかけてここまで作り込んでいるのだろうと尊敬の念を抱いてしまう。
 
僕がしばった髪など、よく出来たヘアスタイルに比べたら20~30点くらいの出来だと思う。大体、「三つ編み」というものを今年初めて覚えた僕だ。
 
その髪形について、今月、新たな要求を突き付けられた。
 
「プールに入るから、頭をお団子にして」
 
お団子。
想像もつかないので動画検索してみたが、お団子の作り方にも、難易度のランクがあるようだ。とりあえず一番簡単なお団子しか僕は作れない。プールの日である今朝もお団子を作った。
 
「これでいい?」
 
と娘に聞くと、
 
「一応お団子だね」
 
と言ってくれた。
 
面倒なようだが、家に帰って、朝しばった髪がそのままの形になっていると、少しだけ嬉しくなる。逆にほどけていると、しばり方がよくなかったのか、あるいは気に入らなかったのかなどとちょっと思ってしまう。
 
今日、帰ったらお団子はどうなっているだろうか。