先週から今週にかけて、妻のラジカット7クール目が行われている。

ALSに関わる方には今さら説明不要だが、ラジカットは病気の進行を抑制するための薬で、毎日1時間の点滴を14日間続け、次の14日間は休薬し、次の14日間はまた点滴し、そうして投薬と休薬を繰り返していくものだ。

この処方、点滴のために時間を拘束される不自由さもあるが、14日間も続けて針を刺さねばならない辛さがある。

そもそもALSでは、筋肉の弱まりのために血管も弱まるらしく、点滴針を刺すこと自体が難しくなる。刺しやすい箇所は限られるし、14日も続けてあちこちに刺していたら、ますます刺す箇所がなくなってしまう。

妻の場合は、前々回クール頃から最初に刺した針を留置して7日間使い続ける方法に変えた。8日目には別の場所に刺し直すが、それでも針を刺すのは2箇所で済む。

ただ、留置針にすると点滴を終えたあと、針とそこから出ている短いチューブを保護しておかねばならない。包帯を巻いて覆っておき、風呂のときは、ビニール手袋やラップを巻いて水が入らないように保護する。これを2週間続けねばならないのでストレスが大きい。

ちなみに留置針の話をはじめて聞いたとき、金属針を身体に刺しっぱなしにするのかと驚いたが、そうではなかった。

金属針は、血管に刺し込む際に使うだけで、すぐに抜かれ、留置用のプラスチック針だけが残るようになっている。すごく細いプラスチックストローのようなものが留置される形だ。

点滴の苦労について書こうと思ったら、ここまででかなり長い説明になってしまった。自分もALSに関わるまで全く知らなかったが、ただでさえ病状が過酷なのに、こんなところにも悩みがあるのだ。

一昨日は、点滴開始から8日目に当たり、針の刺し換えがあった。僕は仕事に出ており、点滴は訪問看護師さんに任せていたが、

「針、手首に刺されたよ」

と妻がLINEで伝えてくれた。手首に刺すととても痛いと聞いている。また、包帯を巻くと手が使いにくいし、できれば前腕にして欲しいところだが、刺しやすい箇所が他になかったのだろう。看護師さんも分かっていて手首に刺さざるを得なかったのだと思う。苦労しているのを僕も何度も見ている。

留置針に関しては、もうひとつ悩みがあって、それは刺したあと、日が経つにつれて点滴が入りにくくなることだ。

6日目、7日目ともなると、セットした点滴が一向に落ちないか、ひどく遅い速度になってしまう。対処としては、

・留置針の中で血が固まったりするので、生理食塩水を注射器で打ち込んで通りをよくする。

・刺した箇所付近の血管を軽くさすってやる。

・点滴台のポールの高さを高くして、落差で水頭圧をかせぐ。

・祈る。

くらいしかない。
「祈る」は冗談ではない。どの看護師さんも例外なく祈るし、妻も僕も点滴が入るように自然に祈ってしまう。

どうしても入らなければ針を刺し直さねばならず、例えばあと1日で終るときにもう一度刺し直すのはなんともがっかりするので、気づくと祈っている。

こんな風になかなか辛い点滴だが、最大の悩みは、効果があまり実感できないことだろう。

一般に点滴というと、効果てきめんなイメージがあって、よく効くの?と知人からも聞かれる。しかしラジカットは、統計的には有意なのだろうが、実感はあまりない。

逆に、実感があれば処方の辛さも気にならないだろう。ラジカットを受けない判断をした方も多いと思うが、とてもよく分かる話だと思う。

前回の記事に書いたペランパネルの処方は、訪問医の先生と話し合って、やはり辞退しておいた。副作用で転倒や精神症状などの可能性があるのはちょっと受け入れ難い。これも効果が実感できるのなら別なのだが。

勝手な望みだが、処方は楽であって欲しい。ラジカットも点滴でなく薬の服用で済めば、どんなにか良いのにと思う。