娘が幼いこともあって、スマホのカメラで動画を撮影する機会が多い。メモリカードは、常に容量ギリギリまでデータが詰まっている。

今年9月、妻のALSをはじめて疑ったとき、過去の動画を片端から再生してみた。
妻は、一体いつ頃から喋りづらくなっていたのか動画で確認しようと思ったのだ。

撮影時期と状態を先生に見てもらえば、進行の様子などを診察する参考になるかもしれない。そう思って一生懸命探したが、あらためて探してみると、妻の声の入った動画は、なかなか見つからなかった。もちろん、笑い声や一言二言喋っているものはたくさんあるが、それでは短すぎてよく分からない。ほとんどの動画が娘を録ったもので、自分の親バカ加減を知る機会にしかならなかった。


妻は、5月頃から痰の絡みが始まったといい、7月には蓄膿症と診断された。その頃から話しづらいと言って口数が減った。
8月には、喋りづらそうなのが僕にも分かった。そうして10月にはALSと診断されたわけだが…

では、3月や4月は、どうだったろうか?
毎日一緒にいながら情けない話だが、はっきりした覚えがない。

結局、先生に動画を見せる機会はないまま診断されてしまったが、それからも気になって時々、過去の動画を探している。

昨日たまたま、4月8日に録った動画を再生してみたら、妻の声が比較的長く残っているのに気付いた。家族3人で科学館に行ったときのものだ。9月に探したときには見落としていたが、数秒は話している。
病気の兆候が全くないかまでは分からないが、少なくとも言葉はよく聞き取れ、異常は感じられない。

やはり妻の言うとおり、このあと5月くらいから症状が出始めたのだろう。


動画ではないが、もう1つ日付がはっきりしているものがある。

6月末のある日、6歳の娘が癇癪を起こして家を飛び出してしまう事件があった。結果的には、約1時間後に無事、帰ってきたのだが、一時的とはいえ完全に迷子になってしまった。

当時、僕は仕事場におり、妻から電話を受けて事情を聞いた。それまで、娘が一人で外出したことなど一度もなかったので、驚き、心配した。

迷子の状態が40分程続いたところで、意を決して、僕から警察に電話し相談した。
そのときの発信履歴が、半年経った今もスマホに残っている。
6月22日、午後5時34分39秒だ。

前後して、妻と電話でやりとりしたのだが、その時の話振りがやや聞き取りづらくて、何度も聞き返した覚えがある。最初、電波が遠いのかと思ったが、そうでなく話し方がはっきりしないからだった。

つまり、4月には普通だったのに、6月末には聞き取りづらくなっていたということになる。つい先日、12月には身体障害者手帳の申請をすることになったわけで、半年の間に進行したのかと思うと、本当に病気が憎い。


話がそれるが、迷子になった日、娘は、蝶々結びのやり方を練習していて上手くできずに怒りだし、一人で家を飛び出してしまったんだそうだ。扉の閉まるバタンという音に気づいて妻が追いかけたときには、既に姿が見えなかったという。

後で娘本人に聞いたら、家の近所を歩き回ったあげく、知らないおばさんに道を聞いて家の方に戻ってきたところ、探し回っていた妻と会えたのだそうだ。意外にしっかりしているものだと驚いた。親バカはさておいて。

スマホには色々なデータが残っているので、時々スイッチが入ったように、写真や動画を見返してしまう。あのときはどうだったろうと急に気になったりすることがある。
それを探してどうなるものでもないが、つい探してしまう。

一方で僕のスマホの壁紙は、今年3月18日に撮った写真のままになっている。
快晴の公園で撮った娘の写真だ。

この頃は病気の疑いは全く持っていなかったと思い返すのだが、実際には妻は、もう一年以上左腕の不調と一人で戦っていた。

昨日妻が、やはり右足が痛いと言っており、心配だ。
過去の記録を見ていても仕方がない。