妻の入院も明日までだ。

昨日は1人、今日は2人、妻の友人がそれぞれ見舞いに来てくれ、僕も一緒した。

会話がしづらい妻の代わりに、今の状態を説明したりしたのだが、皆、ネットでよく調べてくれていて、とても話が早かった。

それだけ気に掛けて手間をかけて調べてまでくれたことが何とも有難い。妻も、普段より多く喋っていて、それを見るだけで僕は嬉しかった。診断以来、最高の2日間だと思った。


ところで少し時期を振り返る話になるが、妻がALSを告知された時のことを書きまとめておこうと思う。記録のためにも、記憶の確かなうちに。

妻は現在、ラジカット点滴を処方されているわけだが、診断の際はあくまで
「ALSの可能性が高い。」
という言い方をされており、
「ALSです。」
と確定的には言われていない。
その辺りのことを書いておきたい。


2018年10月19日、大学病院で検査結果の説明があった。時間はトータル30分くらいで、

①脳からの指令は、途中、中継を経て筋肉に届く。筋電図検査や神経伝達速度の検査の結果、筋肉そのものの異常ではなく、神経伝達経路のいずれかで不調が出ており、運動ニューロンが減っていると思われる。

②運動神経や身体の機能の低下は、全ての人に起こる。90歳のお年寄りがアイドルグループの顔と名前を全て覚えるのが無理なように、機能は誰しも低下する。
それが前倒しで起こっただけで、誰にも起こり得ることだ。


といった内容が20分程続き、その間、病名については一向に触れられなかった。

20分程聴いたところで、ややしびれを切らして、僕が
「運動ニューロンが減っているということは、つまりALSということですね?」
と聞いたところ
「その可能性が高いと思います。」
と回答された。ALSという名前を持ち出したのは、先生でなくこちらからだ。


こう書くと先生の説明が回りくどいと不満を書いているように思われるかもしれないが、そんなつもりは全くない。

僕も、仕事で、人に説明をする機会が多いが、全ての人の期待に沿った説明をすることはおそらく不可能だ。

今回の場合でも、僕や妻の他に、70代の義母が同席しており、事前に調べて持っている予備知識もバラバラだった。僕や妻にとって、①は、事前にネットで読んだことの復習だったが、義母には必要な説明だったと思う。相手がどのあたりからの説明を欲しているか、説明する側には分かりようがないから、丁寧な説明順序を経るのは当然だと思う。

話がそれたが「可能性が高い」という言い方になる理由は、「病理診断」でなく「臨床診断」によるしかないからなのだそうだ。

例えばガンであれぱ、病理組織を直接採取して、顕微鏡で見て、確定的に診断することができる。つまり「病理診断」を行うことができる。

しかしALSは、運動ニューロンの病気なので、病理診断のためには神経を切り開かねばならないことになるが、現実には、そんなことは不可能だ。そのため、症状の表れ方や検査結果をもとに「臨床診断」を行うしかない。

つまり、症状からみてALSの可能性が高いが、実際に神経を切り開いて診たわけではないから確定的なことは言えません、ということなのだろう。

言われてみれば成る程で、あらためて診断が難しい病気なのだと思った。


もちろん、穿った見方をすれば、断定してショックを与えるのでなく、「可能性」というオブラートにくるんで話してくださっただけなのかも知れない。

あるいは、すごく都合よく受け取れば、妻の検査結果がそんなに悪くなく、確定するには微妙なレベルだったのかもしれないが、その辺りのことは、あまり説明されなかった。

一方、今後の進行はどうかと尋ねたところ、ALSは進行速度が本当に人によってまちまちで、グラフにすると収束せずにひどく拡散してしまうと言われていた。

つまり、現在の状態から今後どうなるかを予想することは難しく、経過観察しないとなんとも言えないということなのだろう。

つくづく難しい病気だと思う。

大学病院の先生は、ALSを専門になさっている先生だった。後日、主治医である市民病院の先生と話したとき、その点はラッキーだったと思いますよと言われた。

治療のない病気にラッキーも何もないのでは、と一瞬思ったが、よく考えると診断が難しいとして判断保留にされるなどのこともあったかもしれない。
10月18日に筋電図検査などをして、翌日に結論づけて、丁寧に説明してくださったのだから、確かにラッキーだったと思う。

それから、妻の場合にやや特殊だったのは、検査入院をしていないことだ。
ALS患者の方の体験談を読むと、しばらくの検査入院期間を経て診断されている場合がほとんどのようだ。
妻の場合は、市民病院で半日、大学病院で半日の検査を通院で受け、診断された。

大学病院からは、一度検査入院して、しっかり調べることを勧められたが、子供が幼いことを理由に辞退し、手早く診断してもらうよう希望したのだ。

そういう、こちらの都合の中で診断してもらったこともある。

がしかし、あのときこちらから
「つまりALSということですね?」
と尋ねなかったら、もしかしたら、その病名はつかなかったのでは?と思い返すことがなくもない。

確定診断がつかずに不安を持っている方々も多い病気と聞く。

本当になんて厄介な病気なんだろう。