夏祭りの一つでもある、灯篭流しの前日。
ぼくは、とあるお客を待っていた。
午前中にひとつの部屋を片付けて、大人びた白い子猫【シラー】が過ごせるようにした。
いつまでこの家にシラーがいるのかわからないが、なんとなくちゃんと部屋を空けてやることが必要だと思い、ぼくの仕事部屋を片付けた。
『ここが君の部屋だよ』
ぼくが汗だくになりながらシラーに言うと、意外にも目を丸くして言葉を失くしていた。
何日か共に過ごして分かってきたが、この子は滅多に感情を表に出さないようである。
そんなシラーが、目を丸くしてぼくを見上げている。
これには、ぼくも感激してつい、シラーを抱き上げて、ぎゅーっと抱きしめてしまった。
『降ろして下さい』
小さな声で言われて初めてシラーがちょっぴり照れているのがわかった。
少し頬を染める白い顔。
可愛くて頭をそっと撫でた。
その後、昼食に冷えたスイカとそうめんを食べ、後片付けしていることろに待っていた客がやってきた。
『こんにちわぁ』
暑い中やってきたのは、子沢山なももいろ豚の奥さんだった。
『暑いのに、すみません。どうぞお茶でも・・・・・・』
いつもの冷えたお茶に氷を入れて出す。
すぐさま、カランという音がして氷が解けるほど、今日は暑かった。
『どう?いかがかしら??』
子沢山のももいろ豚の奥さんが持って来たのは、子供用の浴衣一式だった。
『うちの子供たちには、もう小さくなっちゃったから、遠慮なく貰ってちょうだい』
玄関先に広げられた風呂敷の上には、白地に赤や黄色をあしらった朝顔に赤い金魚が描かれているものだった。
シラーは、ぼくと子沢山のももいろ豚の奥さんとのやりとりを、柱の影から覗いている。
『おいで』
ぼくが手まねきすると、シラーが静かに奥から出てきた。
シラーに浴衣を軽くあてがうと、
『まぁ~!!良く似合っているじゃないの!!!こぉんなに可愛らしい子がお宅にいらっしゃるなんて、ビックリしたわぁ。私の子供の浴衣がお役に立ったようね』
子沢山のももいろ豚の奥さんの言うとおり、その浴衣はシラーにとっても似合っていた。
肝心のシラーといえば、どのような表情をして良いものか戸惑っている様子だったが、きちんと坐りなおしてお礼を言う辺りは、どこか大人びていると関心せざるを得ない。
子沢山のももいろ豚の奥さんは、お茶を3杯おかわりすると、満足げに帰って行った。
『良かったね。これで明日のお祭りが一層楽しくなるよ』
というと、シラーは黙ってうなづいた。
これでぼくとシラーの灯篭流し祭りは、一層楽しみになった。
早く明日になればいいな。
ぼくは早くシラーにお祭りの賑やかさを楽しませてやりたくてワクワクしながら、床についた。
大人びた白い子猫の【シラー】と言えば・・・・・・同じように何かにワクワクしているようだった。
なんだか同じ思いをしているのだという、温かさが心の中に湧いてくるのを感じながら、ぼくはいつの間にか眠りについたのだった。