ぼくと友人は、話しながら歩いていると、いつのまにか目的の店の前に来ていた。
店は一見、洒落た喫茶店のようだった。珍しい鳥の羽根の店だなんて誰も思わないだろう。
中に入ると、色鮮やかな鳥の羽根が並んでいる。
キラキラと輝く黄金のもの。プラチナなもの。虹色のもの。
どれを取っても素晴らしいものに違いなかった。
【ようこそ】
そう言って声を掛けてきたのは、気さくなカラスだった。
この店の女性店員らしい。
気さくなカラスは、ぼくの友人と親しげに話している。
どうやら友人は、この店で羽根を注文し帽子に取り付けてもらい、その帽子を受け取りに来たらしかった。
【ここの店は、押し売りしないから好きなんだよ】
と、友人はぼくに耳うちした。
ぼくは、なるほど~というふうにうなづくと、友人の後を付いて店内を歩いた。
友人は会う人会う人と挨拶を交わす。ぼくもそれにならう。
友人は様々な店員たちとジョークを交わしながら大笑いしている。
どうやら、随分前からの常連らしい。
【こちらの方は、どんな羽根がお気に入りですの?】
気さくなカラスはぼくを見てニコリとした。
【ぼくは・・・・・つくよみ鳥の羽根が好きです】
【あら!つくよみ鳥は月光の下で銀色に輝く羽根の鳥ですね!でしたら、こちらでお見せいたしましょう】
そう言って、気さくなカラスはぼく達にテーブルのある場所に案内し、椅子に座らせた。
他にもテーブルが4つほどあって、各テーブルでは年配の女性たちがそれぞれ気に入った羽根について店員と語りあっていた。
【お待たせしました。こちらをご覧下さい】
ぼくの前に並べられたのは、美しい白っぽい羽だった。光の加減で時々銀色に見える。これが月光の下であれば、もっと銀に輝くのだろう。
【この羽根をお洋服の飾りとして用いる方もおられますのよ】
【そうですか・・・・・ぼくは特に欲しくないので・・・・・】
【ホホホ・・・・・無理にオススメはいたしませんので、ご安心くださいませ】
ぼくが欲しくないといったのはそういう意味では無かった。今は満足しているので欲求が無いという意味だったのだが、友人も気さくなカラスも勘違いして、しきりとぼくを安心させるように気配っている。
【どのようなものをご所望ですか?当店では様々なルートを持っておりますので、言って頂ければご用意できますのよ】
【それは・・・・・銀色のようでもあり、黄金のようでもあり・・・・・なんとも言えないような色の羽根なんですが・・・・・】
すると気さくなカラスは目を丸くした。
その瞬間、しまった!!と思った。
【それは・・・・・伝説のフェニックスじゃございませんの??も、もちろん当店でも揃えることはできますのよ。世界中にルートを持っておりますので・・・・・】
気さくなカラスは言葉を詰まらせ、慌てたようにぼくを見た。
友人もぼくを以外そうな表情で見ている。
【きみはフェニックスをみたことがあるのかい?はじめてきいたよ!】
友人は小声でぼくに耳打ちをした。
【一年ぐらい前に、一度だけだけど。物凄く遠くからだったから見たと言う感じでも無いんだよ】
ぼくは苦笑しながら小声で返した。
気さくなカラスが、ぼくのことをじろじろ見ている。
一体何者だろうかという不審な目の色だった。
【たぶん・・・・・なんです。一年ぐらい前に見た輝く鳥が、噂のフェニックスなんじゃないかなぁというだけで・・・・・】
ぼくは曖昧に答えた。気さくなカラスはちょっとホッとしたような表情になって、今度は羽根を使っての様々な飾りのデザインファイルを見せた。
気さくなカラスは一生懸命ぼくに説明をする。どのようなコンセプトで描かれたデザインなのか、ひとつひとつ説明をする。
ぼくは段々とこの空間に違和感を感じはじめていることに気がついた。
それは何が原因なのか判らないのだが、とても居心地が悪く心がざわつく。
辛くて居ても立っても居られなくなった時だった。
【りーーーーーん】
涼やかなベルの音がして、ふと振り返った。その先には、すました黒猫がぼくを待っていた。
【ごめん。彼が迎えに来てしまった。これから彼に付き合っていくところがあるから、申しわけないけどこれで失礼するよ】
ぼくは素早く立ち上がると、友人に早口で告げた。
【君も忙しい奴だなぁ。用があるなら仕方がないよ。また今度ゆっくり会おう】
友人は気を悪くした様子もなくぼくを見送るために立ち上がった。
その時だった。
【な、な、なんだ????】
先程、友人に手渡した封筒が光を放っていた。
ぼくも友人もお互いに顔を見合わせ、再び封筒に目をやると、その光は段々とおさまって行った。
ところが、店内は大騒ぎとなった。
羽根が飾られているところから、その羽根の持ち主だったであろう鳥たちが次々に飛び立っているのだ。
小さな鳥は、まるで蜂のようにブンブンとお客の周りを飛び回り、巨大な鳥は所狭しと羽を広げ風を送る。
突風であおられた客たちは、キャーキャーと逃げ回る。
ぼくは、あわててすました黒猫を振り返った。
彼は、店内で起きていることなど見えていないかのように、金色の目でぼくを見ていた。
【と、飛んでゆく・・・・・】
店内を騒がせていた鳥たちは一斉に飛び立った。
そしてまるで幽霊のように壁をすり抜けると、大空へと飛び立って行った。
【あ。ああ・・・・・】
店内は、尻もちをついてる客や、頭を抱えている客などがいた。
みんなそっと顔をあげて、店内を見回し、驚きのあまり声も無かった。
店内に展示されている美しい鳥の羽根は、何事もなかったかのように綺麗に展示されていたのだった。
ぼくは友人と別れた後、すました黒猫に尋ねた。
【ねぇ。ぼく達は何を見たの?】
【ふふん。あれは、羽根の持ち主たちのオーラだよ。あれだけの美しい鳥達だから、持っている魂もオーラも特別さ】
【なんで・・・・・目で見ることができたんだろう?体感できたんだろうね??】
【それは、金龍の鱗を持っていたからさ】
確かに、友人に渡した封筒が輝き出したあとに起きたことだった。
金龍の鱗については謎だらけで、もっともっと質問したかったがやめた。
ぼくが実際に体験し、金龍の鱗のパワーを実感していくことが必要であるように思えたからだった。
【みこと。金龍の鱗は持つ人の心に反応するんだよ。だから僕にもその力のすべてを把握することは不可能なんだ】
すました黒猫が、ぽつんと言った。
ぼくは心を読まれたような気がして、ドキリとした。
【店内で、きみが落ち着かなくなったのは、その予兆を感じたからだろう。あの現象はきみの友人がやったことさ】
【そうだったのか!】
【ああ。だから・・・・・きみが持っている金龍の鱗は・・・・・きみが目指すものの為に心をこめて使うといい】
そういったすました黒猫は、ぼくを見てニヤリとした。
ぼくの目指すもの。
それは、いつまでも皇美國(すめらみくに)が美しいままでいることだった。