金曜日のこと。
木曜日の南風が去った後の畑の被害は相当なものだった。
南風たちは、激しいダンスを踊りながら、それはそれははしゃぎまくり、流れる雲たちさえも呆れるくらいだった。
笑い声も高らかに、騒ぐだけ騒いで去って行った後には、南風たちのダンスを見ようと駆け付けた雨雲が、もう少し遊びたかったと残念そうに涙を流す姿があった。
ぼくの畑の方はそれほどでもなかったが、南風達が広場でダンスをしたために、広場近くに置かれてあった水瓶が転がって来て、ぼくの自転車にぶつかり、チェーンを壊していた。
ぼくとしては予想外の展開だった。
ぼくが物知りな大木の下でチェーンを直していると、物知りな大木は大あくびをした。
【あ~あ。良く寝た。・・・・・おや、こんにちわ】
【こ、こんにちわ】
殆ど起きているところをみたことがない物知りな大木だ。
ぼくは緊張しながら挨拶した。
【どうしたんだい?自転車のチェーンが壊れたようだね】
【ええ。昨日の南風達が水瓶を転がしてしまって、自転車にぶつかったらしいです。水瓶も壊れましたし、自転車もこのとおりです】
【う~ん。それは残念だねぇ】
【畑の方は対策していたんですが、まさか広場の方からやってくるなんて・・・・・】
と、言うと物知りな大木は低い声で笑った。
【南風達は必ず丘の向こう側に見える風見鶏をくるくる回してからやって来るんだよ~。だから、広場に近いところの方が危ないかもしれないね。南風達は、あの風見鶏を気に入っていて、必ずあそこを通るんだよ】
ぼくは物知りな大木を見上げ、それから丘の向こう側に小さく見える風見鶏を見た。
確かに南風達が近づくと、あの風見鶏が歌い出す。
♪やってくるよ、やってくる、南風がやってくる・・・・・・
その歌声はいつの間にか南風の高らかな笑い声にかき消され、やがて南風のダンスの曲だけになる。
【次回からまた備えればいい】
物知りな大木は、また大きなあくびをすると眠ってしまった。
ぼくは一つ物知りになった気分になりながら作業を続けていると、働き者のウサギがやってきた。
【にんじんを分けてもらおうと思ったが、今は手が離せないようだねぇ】
【もう少し待っててください。もう終わりますから】
ぼくはなんとかチェーンを直すと、にんじんを取りに家に戻った。
働き者のウサギも付いてきた。
にんじんを手渡しながら、冷たいお茶も出した。
【ありがとう。ところで、昨日の南風達は結構遅くまで騒いでいたね。お昼には帰って行くと思っていたけど】
そう言って働き者のウサギはお茶を美味そうに飲んだ。
【ええ。ホントに。畑の方の対策はしていたんですが、広場側の水瓶を転がされまして、自転車にぶつかり、どちらも壊されました。さっき、物知りな大木に丘の向こう側の風見鶏を回してから来るから、広場側は気をつけた方が良いと教えてもらいました】
すると急に働き者のウサギは怒りだした。
【なんだい!知っているんだったらもっと早く教えるべきだろう?君が畑の風避けを作っているのだって、大木の場所から見えるだろう?あいつは、おかしい奴だっ!】
ぼくは働き者のウサギが怒りだしたのが意外だった。
きっとぼくの被害のことを思ってのことだったのだろう。
働き者のウサギがこんなに怒るのも珍しい。
【ウサギさん、そんなに怒らなくても大丈夫ですよ。でもね、ぼくはこう思うんですよ。なんでもかんでも教えてもらうのは簡単です。なんでも事前に分かっていれば楽ですものね。でもそうなったら、ぼくたちは楽すぎて何も考え無くなっちゃうし、努力もしなくなっちゃう。だから失敗すればまた考えればいいし、今度はそういう風にならないためにどうすれば良いかを考えればいいんですよ。そういう事をあの物知りな大木は良く知っているんじゃないでしょうかね?】
働き者のウサギは、ぼくの話に聞き入っていた。
暫く考えた後、何度かうなづくとお茶のお変わりをして、お礼を言ってから帰って行った。
働き者のウサギの後姿はなんだかウキウキして見えた。
働き者のウサギは、ぼくの考えを聞いて自分の意見は言わなかったけれども、なんだか納得している様子だった。