暇潰しにスマホでポイ活をやっていると、頻繁に出てくる質問の1つに「今よりも贅沢な生活がしたい」というのがあります。私の選択は決まって「まぁそう思う」。

そんな私でも、ヴェンダース監督が綴った都会の片隅のお伽噺のような本作に心がザワつきました。

 

都心のボロアパートに暮らす公共トイレの清掃員平山(役所広司)。

清掃中マスクをしない、ゴミを素手で始末するといったシーンに違和感を覚え、車中で流す音楽にこれが外国(人監督が撮った)映画だという事を認識させられる。観光名所にでもなりそうな渋谷区内の公共トイレが次々と磨かれてゆく。

 

ひたすら繰り返される彼の日常と、その中で起きるちょっとしたさざ波。

寺の僧侶の1日、あるいは刑務所暮らしの服役者を連想させるような彼のルーティンは、不要な“生活必需品”が削ぎ落される一方で、彼にとって必要十分な人生の栄養素(本や音楽や居心地の良い休息場所)が揃った生活である事に徐々に気付かされる。毎朝家を出る平山の晴れやかな表情が、眩しく見えてくる。

そんな彼の過去を垣間見る後半、観客は彼の事を少しだけ分かったような気にさせられる。充実した彼の1日がどこから来て、どこに向かうのか。この心優しき清掃員が、意外とナイーブで俗っぽい男である事を知る我々観客には、そのラストで平山が見せる切ない表情(このシーンがカンヌで最優秀男優賞受賞の決め手になったに違いない)がやるせない。

 

ヴィム・ヴェンダース監督初体験でしたが、小津作品を愛するという彼の言葉に嘘偽りない事を本作が証明していた。このどこか物悲しくもあり某缶珈琲のCMのような人生讃歌/人生哀歌は、現代において小津の正統後継者にしか生み出せない作品だと、私には思えました。できれば挿入曲の歌詞に字幕を付けて欲しかった。

 

アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表はこちらの作品ですか。日本映画でいいんですか。でも胸を張って送り出せます。

 

日付:2024/1/3
タイトル:PERFECT DAYS | PERFECT DAYS
監督・共同脚本:Wim Wenders
劇場名:シネプレックス平塚 screen6
評価:7.5