めがね」「トイレット」「レンタネコ」「川っぺりムコリッタ」と、荻上監督作品を観るのはこれで5作目。脚本も担当していて作家性の高い作品となりますが、今回は女性監督らしさが顕著に表れているように思えた。

“女性らしさ”とは、つまりは「男(の私)にはわからない部分」とも言い換えられる。本作の主人公、筒井真理子さん演じる須藤依子の行動原理には、同情の余地と自業自得さと不可解さとが入り混じっていて、そんな彼女を悩ませる様々な要因の1つには、女性にのみ顕著に表れると言われるあの加齢による不具合の様子が見て取れる。

夫、介護、息子の彼女、ご近所、パート先といった極々身近な生活範囲の中の日常に、原発事故に宗教、差別といった社会問題を不躾にぶっ込んでくる。ある日を境に傍から見ると“異質な日常”と化した須藤家の日々を描きながら、依子なりの平穏を保つための努力をどこかコケにしているかのようにも映る。抑制と発散の狭間で揺れる依子の葛藤を、冷めた目で見ているようでもある。

 

パンフレットの監督インタビュー記事の中に、

「依子は、私にとっては共感しづらい人物で、どこかですごく嫌いでもあり、作品の前半では批判的な色が強く出ていると思います。自分が理解できない人間に対する疑問や、その相手を知りたいという気持ちから生まれた人物です。」

とあった。

創造主にこんな言われ方をされる依子に少しばかり同情してしまいます。夫にも息子にも距離を置かれた依子は、ある一点を除けばそんなに問題ある女性には思えない。夫、義父、息子の彼女といった周囲の登場人物を決して善人には描かないでおきながら、依子に寄り添っているいる風でもないこの作品には、そんな秘密が存在していた。

 

手拍子は小気味よい。映画のタイトルそのままに劇中度々インサートされる映像には同調できず。

そのラスト、息子が再び引くであろう依子の行動には、どこか積年の恨み辛みを吐き出しているかのような潔さを感じつつ、その後に控えるあまりに唐突なシーンにカタルシスを感じる事はなかった。残念ながら、不要論に一票です。

 

№23
日付:2023/6/10
タイトル:波紋
監督・脚本:荻上直子
劇場名:小田原コロナシネマワールド SCREEN7
評価:5.3点