クリストファー・ノーラン監督の話題作。ダンケルクの地に取り残された救出を待つ兵達の1週間、救出に向かう民間船舶の1日、ドイツ兵の空爆を阻止せんと空を駆けるスピットファイヤーの1時間という3つのシークエンスが交錯しながら、緊迫の脱出劇と人間ドラマが同時進行する。史実「ダンケルクの戦い」の概要程度は予習をお勧めします。

台詞は必要最低限に、こだわりの映像が知的にノーラン・ワールドへと誘う。秒針を刻むがごとき音楽が緊迫感を高める。本作もこの監督ならではのストラクチャーを感じるエンタテインメント作品に仕上がっている。

 

加えて今回は、指揮官は指揮官の、兵士達は兵士達の、そして彼らを戦場に送り出した英国民は英国民の矜持を発動させる事で、戦地で生まれたヒロイックな高揚感とヒューマニズムが感動を醸成してもいる。英国出身の監督と俳優達の特別な意気込みの存在すら感じてしまう。

 

ただ「インセプション」でも感じたのだが、監督が用意する"時間との戦い"はどこか間延びしていてハラハラするよりもイライラしてしまう。それ以外にも今回はとある登場人物が素っ転んで頭を打つシーンがあるのだけれど、これほどの大作でよもやの使い古されたオーソドックスな展開に、一体全体何が起こったのかと目を疑った。

私、この監督は映画を撮るのが下手なんじゃなかろうかと思ってます。それとも編集のリー・スミスに問題があるのだろうか?

 

この作品はもう一つの問題を抱えていた。本作はそもそもノーラン監督こだわりのIMAXカメラ&65mmフィルムで撮影されており、通常の劇場での公開時は、なんとその情報の40%(!)が失われてしまっているらしい。でもって監督自身がIMAXでの鑑賞を推奨している(ここが問題)。日本国内で"完全版"を観るのは設備を持つ劇場がなくて不可能との事で、ネットにはわざわざ国外で観てきた映画ファンの報告が幾つも上がっている。「ダンケルク」を鑑賞した客のほとんどが、上下をカットされた映像で楽しんでいるという事実。その昔劇場映画がTV放映される際に、4:3のサイズに合わせて両端がカットされていたのと同じような事が劇場で起こっているなんて・・・実に複雑な心境です。

 

日付:2017/9/15

タイトル:ダンケルク |DUNKIRK

監督・脚本:Christopher Nolan

劇場名:シネプレックス平塚 screen8

評価:★★★

 

 

 

 

 

ノーラン監督が発表した、「ダンケルク」に影響を与えた11本というのが興味深かった。

(年代順)

01 「グリード」(1925年) エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督

02 「サンライズ」(1928年) F・W・ムルナウ監督

03 「西部戦線異状なし」(1930年) ルイス・マイルストン監督

04 「海外特派員」(1940年) アルフレッド・ヒッチコック監督

05 「恐怖の報酬(1952)」(1952年) アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督

06 「アルジェの戦い」(1966年) ジッロ・ポンテコルボ監督

07 「ライアンの娘」(1970年) デビッド・リーン監督

08 「エイリアン」(1979年) リドリー・スコット監督

09 「炎のランナー」(1981年) ヒュー・ハドソン監督

10 「スピード」(1994年) ヤン・デ・ボン監督

11 「アンストッパブル」(2010年) トニー・スコット監督

 

若いのに、古い作品をよく観てらっしゃる事。