当時、澤野工房からリリースされる新譜CDには目が離せなかった。
そんな中で日本人のものは稀有だったはずだが、
レコード漁りで東京・吉祥寺の某ディスクユニオンの帰り
A&Fというジャズ喫茶にふらりとよった際、
席に座った刹那、このアルバムがかかった。
どこかで見たようなカモメのジャケット
又柳の下かとおもいつつ、流れる流麗で感受性がきらびやかに
光ったピアノの音に引き込まれた。
すぐにジャケットを手にとる。
Chihiro Yamanakaとクレジットにある。
日本人女性のピアニストのようでもある。
それまでライヴを含めて、かの大西順子は散々聴き倒してきた覚えはある。
が、この女性ピアニストの名前はそれが初めてだ。
しかもプレス先は何とあの澤野工房ではないか。
とすればあの大阪の澤野さんの眼鏡にかなった
数少ない期待できるミュージシャンということか。
それが最初の出会いであった。
もちろん、今では押しも押されぬ実力派のビッグネームとなった彼女。
聴いた事はなくとも、ジャズファンなら名前くらいは誰でも知っているだろう。
リリースごとにベストセラーを重ねる彼女。
しかし最初の出会いはあのカモメのジャケット。
(当時CHIHIROと言えば、千と千尋の神隠しのあの千尋がいいとこだったのだ)
それにしてもこの最初のデビューアルバムを偶然ジャズ喫茶で聴かなければ
2枚目3枚目と彼女の正しい成長過程を同時代で共有できなかったのだなあと、
今このCDを聴きながら、しみじみ浸っているところだ。