チェンバロという楽器は音が小さく、強弱もつかない。
全てピアノに負ける要素を持つが、どうしてどうして
チェンバロにはチェンバロでしか出せない深い味わいがある。
8月のいつもより早く起きた朝、チェンバロの響きが流れると
空気が冷んやりし、ピーンと張り詰めるではないか。
チェンバロの響きは早朝からお昼まで延々聴いていて飽きることがない。
浮世の垢を落とす、浄化材のようなものだ。
スカルラッティはバッハと同時代の作曲家である。
たぶん同い年のはずだ。
バッハより音が明るくバリエーション的にも引き出しの多い作曲家。
お気に入りのスコット・ロスも、もともとが音が明るめで
スカルラッティとの相性はかなり良い。
このCD、スカルラッティのソナタ全集より抜粋したもの。
実は本編のソナタ全集は全部でCD34枚に渡る狂気の作品集。
スコット・ロスはそれを完全制覇したのである。
全34枚のCDである。
チャーリーパーカーやコルトレーンのコンプリートなら
聴いてやろうじゃないのと思うが、
いくら好きなチェンバロでスカルラッティでも、
34枚通しで聴くのは、”永平寺の修行僧”状態ではないだろうか。
このCDはその34枚から、おいしいとこを抽出してくれた、
根性なしファンの為の一枚。
それでもこの凝縮されたエッセンスは高いレベルにあると思っている。
故・スコット・ロスの偉業の一端を捉えた作品だ。
恐怖の34枚組CD