蚕で懐古~平成最後の御養蚕始の儀~ | 大賀屋呉服店7代目「いいきものがかり日記」

大賀屋呉服店7代目「いいきものがかり日記」

創業220年目を迎える岡崎市の呉服店7代目。新聞記者(企業取材)➡コンサルファーム➡着物屋で現在。スポニチ、中日新聞,地元ラジオ局など掲載歴多数、各種講演も実施中。主に岡崎市内の出来事や日本文化、老舗経営や映画について書いてます。趣味は映画鑑賞、読書、将棋

今月初旬のこと、皇居内にて平成最後の御養蚕始の儀が行われました。ニュース映像をご覧になったかたも多いと思います。

 

 

ご養蚕(ようてん)はもともと日本書紀にも登場する豊穣祈念で、明治以降は皇室の儀式として、歴代の皇后陛下によって受け継がれてきました。皇室で作られる絹糸の名は小石丸。雪だるまのような形をした繭の形と、手触りの滑らかさに特徴があります。ここで作られた「小石丸」の絹糸は、国賓への贈り物として使われます。心を伝えるうえで、これ以上のもてなしの例を私は知りません。

ちなみに着物一反に使われる繭の量は2500〜2800個。これ全てお蚕さんの生命の産物です。その餌として必要になる桑の葉の総量も百キロ近くにもなります。また、お蚕さん数え方も「匹」でなく「頭」。昔より日本人にとってのお蚕さんは、蛾としてなく家畜としての扱い、「おかいこさん」と呼んで命への感謝と親しみを表現しました。という訳で、いつか数取団の復活、ご出演の機会あればご注意ください。

現在、日本国内に流通する絹の大部分は海外産で、国内の養蚕所はもう指だけで数える程になりました。それでも生命に対する畏敬の心や五穀豊穣に対する気持ちは変わらないでほしい。明治、大正、昭和に平成と。次の新元号の下でもこうした儀式が受け継がれて行くことに感謝と誇りを感じます。

着なくなった着物や帯の引き取りてもなく、ためらいもなく捨てられる。そんな話を聞くたび、心痛くなるは、こんな事情もあるのです。