この3月に出会ってすこし親しくなったKさんが本業は他にあるのだが、ジャスシンガーとしても活動していて、そのライブが先週心斎橋のジャズバーであったので行ってきた。

バンドのメンバーがまた素晴らしく、味わいのある熟成された音楽に、とても良い気持ちになって、帰宅後も興奮してなかなか寝付けなかった私だった。

 

ところで、その日の曲目の中に「テネシーワルツ」があった。日本では先の戦後、まだ若かった江利チエミがデビュー曲として歌い大ヒットした曲である。江利チエミは父親がジャズミュージシャンで、父と共に子供の頃から戦後米軍キャンプをまわって実力をつけた歌手で、NHKの朝ドラ「ブギウギ」で笠置シズ子が歌手をやめようかと思うようになった若手歌手のモデルの一人とも言われている歌手だ。高倉健と結婚したものの身内の悪意あるトラブルに巻き込まれ離婚したことでも知られている。

テネシーワルツはその江利チエミのデビュー曲で代表曲でもあった。

 

さて、kさんは1曲ごとに、曲の説明をすこししながら歌ったのだが、英語で歌うテネシーワルツの歌詞をドラマのように上手に語ったことで、同席したメンバーのTさんと話が盛り上がった。

テネシーワルツは失恋の歌である。

ダンスパーティ会場に恋人と来た主人公が偶然旧友と出会い、恋人を紹介し、友人と恋人がテネシーワルツを踊っているうちに恋に落ち、主人公は失恋してしまった。あのテネシーワルツは忘れられない、という話である。

ちなみに初めは男性歌手が歌い主人公は男であったが、女性歌手がカバーした時に主人公が女になり、つまり主人公が男でも女でも充分説得力のある切ない歌である。

 

「亡くなった私のお母さんは、この曲が好きで、家で良く聴いていた」とTさんが言った。

「お母さんは結婚する前に、恋人を会社の後輩にとられて結婚されてしまい、『もう、どうでもいい、なんでもいいや、と、来たお見合い話を受けて結婚した』って、私が思春期だったころに話して、えーっ! 私はなんでもいい相手との間に生まれた子供だったの? ってショック受けたことがあったんだよね。結局両親は離婚したんだけど」

今となれば笑い話、というように話してくれた。

しかし思春期に好きな男は他にいたけど失恋して自暴自棄で、誰でもいいからと好きでもないどうでもいい男と結婚してしまった結果、できたのが貴女だ、と知らされたら、たしかにショックは大きい。

 

Tさんは私より一回り年下で、私の両親の世代は、結婚したのは戦後の昭和20年代だが、恋愛も何も、多くはお見合いで、しかも戦争のせいで男の人は少なくなっていたから、相手がいたらよい、というような時代だった、恋愛とは別のレベルの結婚だったはず、と、そんなことを同席していた私と同じ年の他の方とお話した。

慰めにもならない、思春期が遠い昔の私達で、どっちにしろ笑い話になった。

江利チエミが歌った日本版「テネシーワルツ」は歌詞の半分が英語で、日本語の部分も格調が高くて、実際にヒットした時期より遅れて耳にした私は(たぶん流行歌に対して興味を持ち始めた小学生くらいで)、内容などわかるはずもなくメロディと歌声だけしか記憶に残ってなくて、この日のライブで初めて歌の中身を理解した。Tさんもそうだったかもしれない。お母さんが好きだと言って何度も聴いていた意味が、ようやく分かったのかもしれない。

 

ダンスパーティかー。

社交ダンスは手も触れることのない男女が身体に触れ、耳元で会話もして、匂いも含め何もかも互いの感性の合う合わないがわかる。一曲踊っただけで恋に落ちても不思議ではない。

そういえば、と、生の素敵なステージに興奮してなかなか寝付けなかった私は、布団のなかで思い出したことがあった。

ダンスパーティ会場で起きた三角関係(笑)

触りもしない、踊りもしないでの、ただ3人共がモヤモヤしたという18歳の時の恋の話だ。

長くなりそうなので、それはpart2で(近日公開予定w)。