多くの人が思っている?ように、事実上の宮﨑駿(名前の漢字をあらためてからは処女作という、細かいネタ付きである)監督の遺作を昨日観てきた
前作「風立ちぬ」からなんと10年ぶりのジブリ新作、数度目の引退宣言を経て制作された本作に寄せられるファンの期待は相当なものだったろう
果たしてこの新作はその期待を裏切らない内容になっていただろうか
事前の情報(といっても、大元のジブリが「スラダン方式」と呼ぶ鉄壁の情報統制を敷いている為、実際に鑑賞した人の感想が掲載されたサイト等を見ない限りほぼ内容をうかがい知ることは不可能)を排して臨んだ異例の鑑賞となったが、上映途中から今までにない複雑な思いを引きずってラストシーンへ辿り着いたという感じだ
意外だったのは、最後列で見ていた限り、近年観た他の映画でもほぼ記憶にない上映中の退席が3組もいたこと
カップル2組と暗かったが多分中年女性と思われる方々が、余程本人達が思った展開と違っていたことに耐えられなかったのだろうか、熱いジブリファンならではの行動かもしれないが、他人事とはいえ宮﨑監督最新作ということを考えれば相当由々しき事態といえなくもない
でも、そういう気持ちになる人もいるかもな、と今では薄く合点がいってしまうところもある
一つヒントを書くと、この映画は完全なファンタジーのつくりになっている
ハリウッド映画に限らず世界中で生み出されるこのジャンルの教科書的なお手本がジブリ作品であることは疑いがない
そもそも人が書いた絵だけで鑑賞者の感動を呼び起こすのはアニメの醍醐味とは言いつつ並大抵の才能では出来ないが、昔からストーリーのチープさを補って余りある絵力を纏い劇的に話を語りかけるパワーを持っているのが宮﨑作品の特徴といってもいいだろう
過去の名作が連なっている長年のジブリの実績を踏まえて再びファンタジーで勝負した結果だが、敢えて辛辣な言葉を俺が選ぶなら、宮﨑監督のパワーダウン、クオリティの劣化というワードが浮かぶ
"作画"の質の事を言っているのでない
監督の作品全般に見られる絵のディテールの緻密さは、今作品でも実力のあるスタッフに支えられて他のジブリに引けを取らない折り紙付きの出来栄えだと思う(特にその後の展開が全く読めない、ある意味ミスリードの仕掛けとなっている冒頭シーンの画力は本当に素晴らしいと思った)
敢えて視聴者に判断を任せてそういう作りにしたと言えばそれまでだが、つまりその画力とストーリーやコンセプトを結びつける説得力の点で、ネタ切れなのか煮詰め方が不十分なのか、鑑賞者を唸らせる斬新さに欠けていると思ったのだ
(ビジュアルを極めた作品なら他にいくらでもあるではないか)
もうひとつはエンディングについてである
かつて宮﨑監督と旧交を温め互いの作品に悪口を言い合える盟友でもある押井守の言葉を借りると、宮﨑監督は映画の結末を考えずに話を作り出してしまう"3流監督"だから、どの映画も最後はその直前までの展開とは脈絡のない非必然的なスペクタクルをもってきてなんとなく盛り上がって無理矢理終わる、というパターンを繰り返してきたという
言われてみれば、これは多くの宮﨑作品で当てはまっていることだと思い当たる
今回は特に説明が少なくて鑑賞者の理解が不十分なまま、場面展開やキャラクターへの感情移入が浅いまま、あーこれで終わりなんだというエンディングになっていて、いろんなところで消化不良のまま、またもや雑な処理で誤魔化されたなという感は強い
ということで上記で書いた色々なところを全部差し引いて、繰り返すが監督の遺作として観れば俺は観ても損はないと思う
最後に、タイトルと内容がどう結びつくかは、観た人次第かもしれないと書いておきたい