海を渡った北寄りの風が
松林をぬける
枝葉は高いところですられて
私を取り囲む
橋掛かりを進む演者のように
潮の香りを全身に浴びる
遠く病院の屋上にはためく日の丸を臨み
彼我の隔たりに思いを馳せる
私はこんなとき空気に重さがあることを
知る
存在を否定されたエーテルのような
空気が二の腕にからみつく
どこから来てどこへ去るのか
知るものはない
台風の目のへりでくるくると回る駒のように
私は冬の裂け目の空気の中でもてあそばれた