そこに秀蓮尼という尼さんが棲んでいるから、その人にわけを言って匿まってもらうといいわ。分って?」
「ああ、分りました。ありがとう、ありがとう、僕はどんなにして貴方にお礼をしたらいいでしょう」
「お礼ですって? ホホホホ。生命をとられかけていて、お礼はないわよ。……それよりこの手拭で鉢巻をなさいよ。貴方の目印のその額の傷を隠すんだわ。そして一刻も早く、教えてあげたところへ行ったらいいじゃないの」
「じゃあ行きます。……最後に、ぜひ聞かせて下さい。生命の恩人である貴方のお名前を……」
「あたしの名前? 名前なんか聞いてどうするの……でも教えてあげましょうか。島田髷の女――よ」
女は自ら、つと軒下を出ていった。
僕は呆然とその不思議な若い女のあとを見送っていたが、やがて吾れにかえると島田髷の女から貰った手拭で鉢巻をし、生命をかけた危ない目印を隠した。そして続いてその軒下を出ると、スルリと裏通へ滑りこんだ。
裏通は島の人たちで異様な賑いを呈していた。しかしあっちで一団、こっちで一団と、彼等はなにかヒソヒソと話しあっていた。それは脱走者である僕に懸けられた莫大な賞金のことに違いなかった。
住民の中には、僕の方を胡散くさそうに、ふりかえる者もあった。しかし僕は逸早く病院の寝衣を脱ぎすて、学生服に向う鉢巻という扮装になっ ていたので、そんなに深く咎められずにすんだ。