フレデリックは少し離れたところに立ち、身体は私に向けながらも床に伸びている日向を見ていた。
「この部屋のお家主さんは、どういう方なんですか?」
「フランス人のマダムです。インテリア・デザインの仕事をしておられ、現在はモロッコにお住まいの方です」
「お家賃はいくらでしたでしょうか」
「光熱費と水道代全部込みで、月に1200ユーロです」
15区の家賃が月1000ユーロ弱だ。この部屋よりも広くて、家賃は安い。ひと月300ユーロも高くなる家賃を払えるだろうか。私は少し顔をしかめたのかもしれない。フレデリックはすぐに、女性の一人暮らしの学生なら家賃補助をパリ市に要請することができ、月に150ユーロくらいは出してもらえるはずだから、と言葉を続けた。150ユーロの家賃補助が出てくれれば確かにありがたいことだ。とはいえ、私はすでに、ひと月の家賃の金額そのものよりもこの一風変わった部屋に住むのはどんな様子なのだろうかということに、心を奪われていた。
「わかりました、この部屋を借ります。秋にパリに戻ったらすぐに引っ越しします。契約を結ぶのは9月で良いですか、それまでに家賃補助のための書類も作成してください」
「承知しました。引越し後、書類をお渡しできるようにしておきます」とフレデリックはいった。
玄関のブルーの重い扉を開けてから、フレデリックは窓を閉めて鍵をかける。その後木造の扉を両側から閉めて鍵をかける。中は再び暗くなり、私は先に廊下に出た。中からフレデリックが出てき、私と視線が合うと初めて笑顔を見せた。
引っ越し先が決まった私は飛行機の予定を変更しすぐ東京に帰った。
ディディエは、金曜日に仕事が終わるとパリへと出かけて行く。週末の始まりにまっすぐ家に帰るのは面白くなかったし、誰もいない部屋に帰っていつものようにテレビを見ているのはつまらなかった。
つづく