仕事場のデスクを簡単に片づけ、コンピュータをスリープの状態にしてから、ディディエはサックを肩にかついで外に出る。プジョーは今朝止めたところで自分を待っている。車のキーのボタンを押すと、フロントランプとテールランプが点滅して、ロックが解除される。金曜日に仕事が終わった後に見るこのテールランプとフロントランプの点滅は、早く遊びに出掛けようと誘われているようで、嬉しくなる。
ディディエは車のドアを開けると、助手席の足元のスペースにサックを置いた。扉を閉めながらジャケットの胸元のポケットから携帯電話を取り出すと、フロントガラスに取り付けたフックにいれ、コードをつなぐ。エンジンをかけて、そのまま少しエンジンを温める間に、GPSでパリ市の工事現場や車の混雑具合をチェックする。その時携帯電話が鳴って、ディディエはスピーカーをオンにし、車を発車させる。
「アロー、ディディ?」
「ジュリアン、元気?今どこ?」
「オフィスだよ。今晩さ、こっち来る?」
「うん、もちろん」
「何時頃着く?今どこ?」
「オフィスから出たばっか。A3が工事中でさ、すごく混んでるから一般道で行くよ」
「わかった、近くに来たらまた電話して」
ジュリアンからの電話が切れるとすぐにまた携帯が鳴った。
「ディディ?」
「オレリー?久しぶりだね、元気かい?」
オレリーはディディエの質問には答えなかった。
「今どこにいるの?」
「今?車ん中。運転中なんだ。さっきオフィスから出たところだよ。ちょっと待って、今たばこに火つけるから」
ディディエは自分の言葉に思い出したように煙草の箱をあけて一本抜き出した。
「今晩は何するの?」
「今晩?ダチのところに行くよ。さっきジュリアンから電話あったんだ」
女の会話は少し途切れる。煙草をくわえたディディエはそれに点火ランプを押し当て、器用に口の横から煙を吐き出し窓を少し開ける。
「君は何するの?」と煙草を手に持ち変えてディディエが聞こうとしたところで、女は今晩は家に来るかとディディエにたずねる。
「君ん家に?うーん...」
ディディエは一瞬言い淀んだのを悟られないように、咳混んでみる。
「わかんない。まだオフィス出たばかりで、車も混んでるんだよね。それにまだ7時半すぎじゃん、これからのことはまだわかんないよ」
「じゃ、適当な時間に電話してよ。家にいるから、私は」
「わかった。電話するよ」
ディディエは女の言葉を待つ前に電話をオフにすると、「いつかね」と続けた。
つづく