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wii / La farine

どうにもならないのに

 パリ市を囲むようにしてつくられている外環状道路ペリフェリックは、金曜日の夕方が一番混む。郊外のセカンドハウスで週末を過ごすためにパリ市から出ていく車と、週末をパリで過ごすために地方からやってくる車だ。隣国のベルギーやその向こうに位置するオランダから来ている車を見ると、パリに遊びに来たのか、仕事に来たのかわからないとディディエは思う。フロントの車の動きを目で追いながら、携帯が鳴ると陽気に受ける。車の中でボリュームを大きくして聞く音楽は、その都度音量が下がる。

 金曜日が一番のんびりする。平日に仕事をしているなら、誰もが同じ気持ちだろう。でも、そうでもないかとディディエは考え直す。家庭が上手くいっていないなら週末は楽しくないと二コラがいっていたのを思い出したのだ。ディディエは音楽のボリュームを落とし二コラに電話を掛けるが、留守番電話になっている。

「アロー、二コラ?ディディエだよ。久しぶりだな、元気か?今車の中から電話してて、これからパリに行くんだ。時間があるなら、少し会うかと思って電話したんだけどね。挨拶のキスを送るよ、それじゃね」

 ディディエは再びボリュームをあげて、運転を続ける。ハンドルをきりながらも二コラのことを考える。せっかく好きな女と一緒になっても、喧嘩ばかりじゃ嬉しくない。男は女がいつも笑っていてくれないと、幸せを感じない生き物だ。女は、男は稼いでくれないと幸せを感じない生き物だ。男の稼ぎが少なかったらどうするか?女だって仕事すりゃいいじゃないかと思ったところで、フロントガラスの携帯が鳴った。ロランだ。

「アロー?ディディエ?ロランです。お元気ですか」

「こんばんは、ロランさん。元気です。ロランさんはいかがですか」

 いつもダチからの電話ばかりじゃない、俺にだって仕事の電話はかかるもんだとディディエは思う。

「元気ですよ。金曜日の夜の電話ですみません。実は...」

「構いませんよ、どうしましたか?」

「実は、社内のコンピューターの具合が悪いのです。申し訳ないのですが、明日一度社に来てもらって、見てもらえないでしょうかね」

「明日、ですか」

「月曜日に来客があり、それまでに不具合を直しておきたいのです」

 金曜日の翌日は土曜日だから、仕事なんてしない日じゃないかとディディエは思う。けれども、仕事をすれば、金になるのだ。

「いいですよ。伺いましょう」

「ありがとうございます。そういってもらえると思っていましたよ」

 ロランはディディエの上司ではない。内緒で請け負っている仕事場の社長なのだ。自分の技術が金になるのは、嬉しいものだ。でも、ロランの押しの強さは気に食わないときがある。

「合鍵はお持ちでしたよね、それで中に入ってください。私の部屋のコンピュータと、マーケティング部長のコンピュータです」

「ロランさんは明日、おいでになりますか?」

「いえ、私は行きません」

 良い週末をと言葉を残して、ロランの電話は切れる。ロランが明日来ないのは、別荘に出かけているからだとディディエは思う。

「良い週末を、ね。ありがたいことだ」

 ディディエは、また煙草に火をつける。


  つづく