金曜日のパリ市内の通りで駐車場を見つけるのは大変だ。繁華街に近ければ近いほど、その辺りをどれだけ回っても車を止められる場所など、簡単には見つからない。それだけに、自分の運転する車がジュリアンのオフィスの前で止められるのは、今日はついている日だとディディエは思う。車を止めて、ロックを掛けると、テールランプとフロントランプが3度点滅する。ディディエはこのプジョーが好きだった。
ジュリアンのオフィスの入り口はシャッターが閉められている。裏口に回りながら電話を掛ける。インターホンを鳴らすより、ジュリアンは電話を掛けてほしいというからだ。
「ジュリアン?ディディエだ。今、着いた、裏口開けてよ」
ディディエが扉の前に着くと、ジュリアンは扉を開けて待っていた。
「もっと、遅いかと思っていたよ」
両頬に挨拶のキスをしながら、ジュリアンがいう。
「わりと空いてたんだよね、車が。それにオフィスのすぐ前に止められたから。ついてるね、今日は」
ディディエが答えて扉を閉めた。
そこはバックオフィスだった。ジュリアンの元で仕事をしている部下が3人おり、それぞれディディエと握手する。
「ハーイ、ディディーエ。久しぶりっすよねー、へへー」
肩をたたかれて振り向くと、アンドレがいる。ディディエは笑って久しぶりだと答え、握手をする。今日は金曜日の夜なのだ。皆、目元がどこかうつろで、わけもなく笑っている。ディディと呼ばれて振り向くと、ジュリアンがテーブルの上を目で示した。黒い皿の上に白い粉が3本分けられていた。ジュリアンは何も言わず、大きなサイズのポストイットを渡す。ディディエは、そこから一枚をはがすと器用に細く巻き、筒状にした。
「これ、どっち?」
「どれでもいいよ、好きなのやんなよ」
ジュリアンは笑顔を見せているが、目元は笑っていない。後ろで4人がげらげらと笑い始める。ディディエがひとさし指で左の鼻腔を抑えると右鼻に巻いたポストイットを入れる。白い粉を一気に吸い込むと、ジュリアンはにっこりと笑う。
つづく