ジュリアンは上を向いて鼻をすすりながら、咳込んだ。黒い皿に息がかからないように背を向けた。アンドレと部下3人は黙って黒い皿を見ていた。ジュリアンが両手で鼻を押さえながら、テーブルに向き合うと、ディディエと目が合った。首のコリでもほぐすようにジュリアンは両肩を交互にかしげながら、電話をとろうかと打診した部下に目を向け、視線が合うと、黒い皿へと目で促した。一瞬驚いた顔を見せた男は、それでもすぐに自分が手にしていたポストイットを巻き直しテーブルに近寄った。右手で右鼻を押さえて、左手を筒を持ち、一気に吸い上げた。男は顔を上に向けて、鼻をすするうちに大きく二度ほどくしゃみをした。
「誰?次」
ジュリアンがいうと、アンドレがテーブルに寄ってきた。その後に部下の二人が続き、最後のラインをディディエが吸い上げたときには、ジュリアンの話に皆がまた大笑いしていた。話が途切れると、どこか遊びに行こうとジュリアンがいった。ディディエは右手でつまんだ鼻の皮膚を上に持ち上げるようにして鼻腔に隙間をつくると、大きく息を吸い込んだ。ひりひりと焼けるような痛みがあるのに、頭は快感であるとメッセージを送ってきていた。
「いいですね、どこ行きますか?」
部下の一人がジュリアンに同意したが、後の二人は黙っていた。
「金曜日に出かけるところといえば、ひとつしかないでしょお!」
アンドレはおどけるように節をつけていった。
「バトファーで、今日、なんかやってるよね」と、ジュリアンがいうと、黒い皿を勧められた部下が情報を探すといって、ジャケットから携帯を取り出した。ジュリアンは煙草に火を点ける。小さく窓を開けると、アンドレも煙草に火を点けた。部下の二人は何とはなしに、情報を探す男を眺めていた。手持無沙汰になったディディエは自分のポケットから煙草を取り出すと、アンドレにライターを借りた。アンドレがそれを放ってき、ディディエの煙草には火が点けられた。鼻のうずくような痛みを感じながら吸う煙草は、どうして旨いのかとディディエは思った。
「今晩は、ロックンロール80’sだそうですよ」と、部下がいった。
「ロックンロールねえ、どう、アンドレ?」といいながら、ジュリアンがけだるそうにアンドレを見た。
「別に、いいんじゃないの?」
ディディエは時計を見た。そろそろ11時になろうとしていた。
「なんか、他にない?他に」
ジュリアンが携帯で情報を探す男に声をかけた。これからクラブに行くのかとディディエは思った。明日のロランのオフィスの仕事がどれくらいで終わるのだろうか。あまり時間がかからなければ良いけれど。でも、システム故障なら時間がかかりそうだと思う。煙草を吸い終わったジュリアンが灰皿に煙草を押しつぶした。それから黒い皿を手にし、白い粉が薄く残る表面をなめた。ディディエと目があったジュリアンは黒い皿を手渡そうとする。ちょっと笑ってディディエは首を振った。
「いいよ、どこでも。出かけようよ」
ジュリアンがいうと、アンドレがジャケットに手を通し、部下たちは椅子から立ち上がった。
つづく