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wii / La farine

どうにもならないのに

「で、どこ行くのさ?」

 ディディエは窓を閉めて明かりを消そうとするジュリアンに聞いた。ジュリアンは肩をかしげた。

「どこだっていいじゃん。なんかあるでしょ」

 ジュリアンは気まぐれだ。どこでも良いという時に限ってどこも気に食わないことがある。どのクラブでもどんな曲でも、’面白くないから’と中に入るなりすぐ帰りたがることがあった。今来たばかりなのだからと誰が諭そうとしても、おまえたちはいればいい、俺は帰ると一人で出て行ってしまうことがある。

 ディディエは明日の仕事の様子を考えた。今から一緒に遊びに出かけたら、何時頃に家に戻れるか?ロランのコンピュータとマーケティング部長のそれが具合悪いといっていたが、ふたつともすぐに直せるだろうか。

 椅子を元にもどした部下たちがオフィスの外に出、アンドレが続いた。ディディエを先に外に出した後、ジュリアンが電気を消して扉を閉め鍵をかけた。

「ディディの車は?」

「だから、オフィスのすぐ目の前だよ。さっき言ったじゃん」

「そうだっけ?」

 ジュリアンはポケットに両手を突っ込み裏口から通りに出るまでディディエの横を歩く。

「どこ行きましょうか。バトファーでいいんですか?」

 携帯を持った部下がジュリアンに聞く。他の二人は黙ってついてきていた。

「いいよ、な、ディディ?」

「いいんじゃないの?曲が良くなきゃ、近くにNIX NOXもあるじゃあん」

 アンドレが横から口をはさんできたことにディディエは腹をたてた。

「ディディ、バトファーでいいだろ?」

「帰るよ、俺」

 ちょっと驚いたような顔をジュリアンがする。

「なんでさ、遊びに行こうよ」

「そうだよ、ディディーエ、つきあい悪いじゃあん。金曜日じゃあん」

 アンドレが節をつけていうセリフがやけに気に障る。

「今日はもう帰る。明日ロランさんのところで仕事なんだ。ここ来る時電話あってさ、システムの具合が悪いんだとさ」

「ふーん」

 わかったというようにジュリアンはうなづいた。じゃあな、また連絡するよといいながらディディエは自分の車に歩いていく。ディディーエと後ろから声がした。振り向くとアンドレが大きく手を振っていた。

「気が向いたら来いよなあ。バトファーにみんなして行ってっからさあ」

 あいつ、大丈夫かよ。今晩はどれくらいすっ飛んでんだ?

 車のロックを解除し、ランプが点滅する。ドアを開けて中に入る。助手席の足元のサックが目に入った。自分のラップトップが入っているカバンを持っていくのを忘れていたのに驚き、よく車上狙いに合わなかったものだと安堵した。

 イグ二ション・キーを回してエンジンを起動させライトを点けたとき、オレリーの顔が頭に浮かんだ。オレリーか。今何時だ?11時半か。どうしよう、電話してみようか。ディディエはジャケットから携帯を取り出すと、フックにいれてコードをつないだ。パリ市の工事と混雑状況を確認する。帰りは道が空いていそうだった。それならやっぱり家に帰ろう。他の車を確認しながらディディエはハンドル・ブレーキを下げ、ギアを入れて、アクセルをふかした。悪いね、オレリー、やっぱり今晩も家に帰るよと、ディディエは思った。


  つづく