耳をつんざくように音が鳴り響いていた。壁の材質が良くないのか、音が籠るようでこの場所ではきれいに曲が聞こえない。暗い入口正面のカウンターで女が挨拶をする。ディディエは笑いながら、カウンターの右側からゆるく曲線を描く階段をおりていくうち、明かりが点滅するのが見えてきた。ダンスフロアはあまり混んでいなかった。土曜日は一般企業は休みだが、日曜日はスーパーやカフェなど多くの店が休む。パリではクラブが混むのは実は土曜の夜なのだ。階段からジュリアンやアンドレを探していると、フロアの隅で、女が踊っているのに目が止まった。曲に合わせて身体を揺するたび、長い髪が揺れる。点滅する明かりが一瞬女を照らした。黒い服を着た東洋人だった。目を凝らす前に、前から人が昇ってき視界が遮られた。ディディエが場所を動いた時には、もう女はその場で踊っていなかった。
きょろきょろとしながらディディエが階段を下りたところで、二の腕をつかまれた。
「ディディーエ、えへへー。やっぱ来たね。いつ着いたの?」
アンドレだった。ずいぶん酒くさい息をしていやがる。あれだけすっ飛んでこれだけ飲むなんて、大丈夫なのか?今来たばかりだとディディエが握手する。
「ジュリアンから来るって聞いたからさ、探してたんだよーお」
「ありがとね。で、ジュリアンはどこさ?」
ディディエはフロアからバーを見回すが、知った顔はなかった。
「バーにいたけど、いなけりゃトイレかも知んない。エロディー達探してたから」
エロディーか。もう一人の女はポリーヌという名前だったか。クラブで会っても女の名前は覚えられない。顔を見てもわからなくてはじめましてと挨拶すると、この間会ったじゃないのと嫌な顔をされる。それで、どの女にも一度会ったよね、どこだっけというのだが、今度はあなたなんて知らないといわれる。アンドレはカウンターに近づき、中の女と他愛もない話を始める。ディディエはフロアを見渡すが、あの女もジュリアンも見つからなかった。アンドレが手を振り、ディディエを呼んでいる。くるくる回るライトが邪魔して、思うように人は探せない。上着を脱ぎながら、ディディエはカウンターのアンドレの近くに寄って行った。
「ディディーエ、なんか飲む?」
アンドレは片手にビールを持っている。
「いや、いいよ。小銭がないんだ」
「ディディーエ、最近、つきあい悪いじゃあん。何がいいのさ、いいなよお。金なら持ってるからさあ」
ディディエはカウンター脇の椅子にジャケットを置きながらコーラを頼むと、ジュリアンが女達を連れてカウンターに戻ってきた。ふたりの女にディディエを紹介する。それぞれの頬に挨拶のキスをしながら、一度会ったよね、どこでだっけ?というと、ル・コストでとエロディーと紹介された女がすぐ答えた。俺が?あんなヒップでスノッブな場所に行くわけがないとディディエは思った。女も結局、男を覚えちゃいないんだ。
「それならずいぶん久しぶりだよね。ずっと元気だったかい、お二人さん?」
ディディエはコーラに口をつけた。
つづく