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wii / La farine

どうにもならないのに

 アフリカ。憧れる国だ。一度も行ったことのない所を、マルタンから誘ってもらえるとは思わなかった。ロンドンに行こうとかニューヨークに出かけようと云われても、どちらも出かけたことのある場所だけに、どうとも思わなかったはずだ。けれど、一緒に出かけようと誘われた国がアフリカであったところに、私は心が躍り、同時に気持ちが萎えた。マルタンの少し伸びた髪が頬にあたり、両肩で大きく呼吸する様子が肩に回された両腕からも伝わってきている。今しがた出会った女を抱きしめているにしては、まるで遠慮がない。

「マルタン、大丈夫?私に顔を見せて?それにごめんね、ちょと苦しいの」

 素直にマルタンは腕をほどき、視線をあわさないまま、顔を私に向けた。顔にかかっている栗色の髪を顔から指ではらった。きれいな顔をしている男だと私は思った。「君と一緒にアフリカに出かけられたらどんなに素敵だろう」とも思った。

「マルタン、ここから中に入りましょう。コートを私に貸してくれたから、あなたも寒いでしょ?風邪を引いてはいけないわ」

 マルタンは何も答えず、うつむきながらうなづいた。船内に入ってからは肩を抱いてくるとか、手をつないでくるなどという馴れ馴れしさはなく、そこがとても気に入った。でも、20歳以上も年下の男に、こころと身体をあっさりと預けられるほど、私は若くはなかった。

 マルタンが先になって、ふたりして階段を下りていく。ダンスフロアにはまたたくさんの人が踊っていると思ったところで、あつこと呼ばれ、肩を叩かれた。見ると、マルタンより先に声を掛けてきていた男だった。私はもう名前も覚えていないから驚いた。

「探したよ、あつこ。どこにいってたのさ」

「トイレに行ってたの。まだいたの、もう帰ったかと思ってたわ」

 男は薄く笑って、「ひとりで帰るには寂しいからね」と答えた。

「ずいぶん遅くなったじゃなないか、早く帰ろうよ」

 男は私の肩を抱き、その手を軽くはらいながら悪いけれど連れがいるのだと断ろうとすると、マルタンの姿はもうなかった。

「連れ?どこに?誰もいないじゃないか」

 私は「ほらね、やっぱり。きれいなお顔のお兄さん、アフリカ行きが吹っ飛んだ理由がわかるでしょ?」と心の中で毒づいた。



  つづく