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wii / La farine

どうにもならないのに

 男は女の子から私の説明を聞いたのだろうが、上手くかくまってくれるような様子はなく、にやにやとしながら身体をわざとそらしてみたかと思えば、バーカウンターに突っ伏すような格好をとろうとしたりした。その動きに合わせて私が同じように身をそらしたり、身をかがめるのを男と女の子たちが楽しんでいるようにみえ、良い気はしなかった。マルタンとパスカルは笑顔になって話している。「そのまま二人で帰ってくれたらいいのに」と、私は思った。あのふたりなど置いて何故このNIX NOXから出て行こうとしないかを考えたとき、女の子たちがその場を離れたから、あわてて私は男の横に少し歩みよって身長の陰に隠れた。

「サリュ、アンドレ」

 それまで身をそらしたりかがめたりしていた男が「ディディーエ、えへへー」とげらげらと笑い出した。アンドレと呼ばれた男と私の間にその男は立ち、満面の笑顔で私を見た。ずんぐりとしたでぶな男だった。無精ひげをはやしているからなのか、熊のぬいぐるみを思い出した。

「今晩は。どっから来たの」

 同じ質問の繰り返しである。それからきっと、ここでは何してるの、名前は、何処の国から来ているの、誰かと一緒、一緒に飲もうよのどれかで会話が始まり、最後は今晩は一緒に帰ろうよと誘われる。ここから来た、パリに住んでると答えると誰もが同じようにちょっと驚き、パリ滞在を褒めるのだが、その男はただにこにことしながら私の顔を見ていた。

「ディディエっていうんだ。君は?」

「あつこよ」

「へえ、日本人?」

「よくわかるわね。そう、日本人よ」

「日本人は、大好きなんだ」とディディエが答えたところで、後ろから、「この男には気をつけなくちゃ」という声がした。振り向くと知らない男が私に話しかけている。

「君、聞こえたかい?この男は既婚者なんだよ、気をつけなくちゃ。女にはみんなに声かけるけど、奥さんがいるんだから。インドネシア人なんだよ」と繰り返した。ディディエは笑顔のまま今度は男を見ている。


  つづく