放送作家の小野高義です
今週になって
いくつか無駄な宿題が増えているのは
例の記事によるものです。
なんせレギュラー10本以上も持っていて
いきなり自粛となると
こんな末端にも影響が出てくるわけです。
まあ別にいいんですが。
◇
週が明けても
昼間のワイドショーは飽きもせずにこの話題ばかりで
他の雑誌も乗っかって
お祭り状態です。
砲弾を撃った雑誌としてはしてやったり
ってところでしょう。
◇
影響は甚大です。
出演していた各番組
CM
そして何より奥さんの仕事
家庭、子供…
それぞれが受けた
損と得を秤にかけたら
どちらが傾くでしょう。
それはもう
天秤がぶっこわれるくらい損した方が大きいでしょう。
◇
雑誌の記事を見ました。
おそらく嘘はありません。
綿密に地道な取材で事実を集めて記事を「作り上げた」のでしょう。
その取材力には恐れ入ります。
しかし
「嘘がない」
ということが、実はタチが悪いのです。
◇
今回の件は
平たく言うと
芸人のくせに超絶美人な奥さんをもらい
グルメのうんちくをたれるいけすかない男が
女を雑に金で買うというゲスい不倫をしていたことが暴かれて
心のどこかで「なんだこいつ」と思っていた多くの人たちが
それ見たことかと溜飲が下がった
ということで
まさに
そんな潜在的な民意を的確に捉え
事実を探り当てて
記事を「作り上げた」
から
ここまでのお祭り騒ぎになっている
と考えられます。
◇
そう
記事は、事実を積み重ねて
狙い通りに「作られて」います。
雑誌の記事
ことに
こういうゴシップスキャンダル系の雑誌は
このストーリー作りが実に巧妙です。
◇
例えば冒頭
「あばた酷いですね。今の会話、録音していますから。嘘をついたら大変ですよ。彼と最後に会ったのはいつ?」
六月六日深夜、都内在住の女性が握りしめる携帯電話から、ドラマや映画などで聞き覚えのある声が響いた、その声は幾分低く、明らかに怒気を含んでいた。
詰問調の声の主は、女優佐々木希。彼女が「彼」と呼ぶのは、2017年四月に結婚したお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部健である。その日、不埒な日常を知った佐々木は逆上し、相手女性をみずから問い詰めるという修羅場を演じたのだ。…
…ってなかんじで始まるんですけど
おそらく
カギカッコのセリフの文言はその通りかもしれないけど
幾分低く怒気を含んでいたかどうかなんていうのは主観でしかないし
「不埒な日常を知った佐々木が逆上」
したかどうかなんて記者が見てるわけないしそれこそ家にいる2人しかわからないのに、そう言い切ってしまう。
実は、この「不埒な日常に逆上」して不倫相手に「電話をかける」という
象徴的な不倫の修羅場を冒頭から印象づけることで
「グルメ王とか言ってる男の不埒な本性を暴きますよ」というストーリーに
読者を引き込んでいることがわかります。
そして
最もダメージを与えたのが
「六本木ヒルズの多目的トイレ」
のくだりですが
おそらく
B子という女性から膨大な事実を聞き出し
「六本木ヒルズの多目的トイレ」
の証言を得た時点で
この記事にGoが出た
と考えられます。
セレブの象徴「六本木ヒルズ」
の
不潔の象徴「トイレ」しかも「障害者用多目的トイレ」
年間500件以上
おしゃれな店を食べ歩く「セレブ」な男の『便所のような本性」
を暴く
これ以上ない象徴的な構図です。
実際こんなものは
全てのハレンチ行為のほんのごくごく一部
本人ですらあったかなかったか思い出せないような
氷山の一角にもならない行為
で
おそらくインタビューを受けた方もそんなことあったかな
くらいのところを
根掘り葉掘り聞かれるとだんだん思い出してきて
聞き手が
「それはひどい、もっと女性として扱って欲しかったんじゃないですか」
と聞いて
「んー…そうですねえ…」
と相づちを打ったら
こんな見出しと
まるで悪質なレイプ魔に襲われた悲劇の被害者
のような文章になってしまった
ってことなんじゃないか
と考えられます。
よく考えてみて下さい。
トイレでほいほいやっちゃう女が
「ああ、もっと女として扱って欲しかった」
とさめざめ泣く
みたいなシーンがドラマであったとしたら
そいつはよほどのメンヘラキャラか
あるいは
クソ脚本か
のどちらかです。
◇
そう思うのは
仕事柄
書かれた記事と書かれた側の言い分を聞く機会もあって
書かれた方は
「そりゃお前もしょうがねえよ」
ってところはもちろんあるんですが
それにしてもやはり
嘘とねつ造がなくても
事実を重ねた悪意あるストーリーに仕立て上げられている
ということがほとんどです。
◇
報道の自由
とか
表現の自由
とかいう言葉があります。
民主主義の世界であるために不可欠な
金科玉条です
が
どうやら多くは
というか
この表現をやたらと使うほとんどが
自分たちの都合の良いように解釈して言い放っている印象があります。
◇
今回の記事で
文春は売れたでしょう。
「文春砲おそるべし」
というブランドイメージも
ますます強固になったことでしょう。
しかし
それを「報道の自由」の名の下に
文春砲としてぶっ放した時に
どこにどんな影響が及ぶか
思いは至らなかった
とは言わせません。
◇
「ジャーナリズム」と称して
「隠れた悪事を暴く」ことを正義として振りかざしている節もありますが
実はそうではないですよね・
先にも言ったとおり
芸人のくせに超絶美人な奥さんをもらい
グルメのうんちくをたれるいけすかない男の
女を雑に金で買うというゲスい不倫をしていることを暴けば
心のどこかで「なんだこいつ」と思っている多くの人たちの溜飲が下がる
ということをわかって
それに沿う事実を集めて
記事を「作り上げた」
にすぎません。
そんなのは
ジャーナリズムでもなんでもなく
取材と言葉を使った一方的な暴力
で
そんな暴力を許す「自由」など
許していいはずはありません。
◇
取材した記者、ライター、編集は
決して世の中の正義のため
に
この記事を作っていません。
会社の利益のためです。
これは間違いありませんし
その姿勢は
この資本主義の中で何ら間違ったことではありません。
しかし
ただでさえ
それを出したことで
天秤が振り切れてぶっこわれるぐらい損する人の方が多い
この記事で
書かれた芸人は、
この記事一発で
おそらくこの先テレビタレントとして活動することはできないでしょう。
年間
億はいっていたかもしれない収入はゼロになるかもしれません。
それだけでなく
女優である奥さんにも
大きな影響が出ます。
芸能界というのはイメージ商売ですから。
つまり
この記事を書いて世に出すと言うことは
どんな理由があれ
それだけのお金が吹っ飛び
それまでの生活の糧を奪う
という行為だということです。
◇
これを自業自得というのはあまりにもひどい。
自業自得というのは
ゲスな人間性が仕事に出て、お茶の間から嫌われていくのが自業自得です
しかし記事は
「雑誌を売るために狙い通りに作られたもの」です。
こんな記事を出さなくたって
彼が出ているテレビはおもしろく回っているし
ほぼほぼ誰も不快な思いはしてないし
余計な宿題が出たりもしないで
安定的な収録が行えたわけです。
◇
この記事を書いて出す、ということは
「あの会社の社長、儲かってるけど会社はブラックで女癖も悪い、だから家の金を盗んでしまえ」
っていう精神性と
たいして変わりありません。
会社の社長の場合、まだ被害を受けてる社員の怨念が強いから、まだ喜ばれるかもしれません。
それよりも喜ばれない、この記事です。
◇
正義を手にすると暴走するという人間の性は
コロナの自粛警察たちの行動でイヤと言うほど思い知らされました。
こういうゴシップを書く人たちは
自分たちが
一人の人生を一発で終わらせる殺傷能力を持った武器を使って
対象者を殺しにかかっている
という自覚があるのかどうか
書いてしまったらどれだけの被害が及ぶのか?
わかってやっているとしたら悪質だし
わからなければ想像力の欠如も甚だしい
表現の自由や報道の自由は
与えられるべき機会が自由ということであって
何を言ってもいい
ということでは決してないし
こんなしょうもないことに向ける刃ではない
と思うのであります。
というわけできょうはこのへんで
小野高義でした