しのばず太郎…というのは仮の名で、本当の名は知らないけれど、いつからか、ふらっと木馬亭の前に現れて、私に自作の詩をくれるおじさん…おじいさん、かな。
呼び込みしてるとき久々に姿を見かけたので、ご挨拶した。
「新作はないんですか」と言ったら「今日は持ってない」
私の「こみち通信」を渡した。
観て行きませんかと招待したけど、「いいよ、いいよ」と歯のない口でへらへらと、太郎さんは笑って帰っていった。
元気でいたんだ、太郎さん。

次に何日かしてスーパー袋を提げて木馬亭の前に現れた。
「やるよ。重かった。手が痛かった」
袋の中は、山ほどの缶ビールと、オカキと詩の束。
そして上野に大道芸を観に行くと言って、いつものように歯のない口でへらへら笑いながら太郎さんは去っていった。
わざわざ持ってきてくれたんだ。
自分で刈ったという白髪は、祭の人みたいにピシッとかっこよかった。
「しのばずだから、上野ですね」と、横にいた中津川弦ちゃんが微笑んだ。

寒くなるから、風邪ひかないでよ、太郎さん。