あらすじ
雪に閉ざされた山荘。そこは交通が遮断され、電気も電話も通じていない世界。集まるのはUFO研究家など癖のある人達。突如発生する殺人事件。あくまでもフェアに真正面から挑んだ推理小説。
(byアマゾンのページ)
「あくまでもフェアに真正面から挑んだ推理小説」と裏表紙に書かれていたため、推理しながら読んだ。
以下ネタばれあり
社長の「何か思い付いたらすぐ電話する」発言から、社長がコテージでしゃべっていた相手は電話だったのだろうと思ったが、そこから、犯人がその場にいた場合、アリバイを手に入れることが出来るのは誰か、という部分まで考えが及ばなかった。(「アリバイ」の部分)
また、作家&作家のマネージャーが灯油を取りに行く際、物置に行っていることを完全に読み落としていたため、この2人が犯人予備郡から除外できなかった。(「凶器の選択」の部分)
むしろ、「部屋の灯油が不自然に減っている→灯油を何かに使ったに違いない!」と無駄な想像を繰り広げる始末…
以下作品に対しての疑問点等
ミステリーサークルを作る→ミステリーサークルを信じる人の心情を理解できている→UFO完全否定派ではありえない。
という理論を展開するが、この結論は強引であるし、UFO完全否定派だったとしても全員が嵯峨島の熱狂的なUFO信者っぷりを目の当たりにしているので、全員が『ミステリーサークルを信じる人の心情を理解できている』と言えるのではないだろうか。
「心因的要素」は直接犯人を絞り込む要因とならないことに加え、そもそもこの推理を行っているのがスターウォッチャーであるため論理的でない部分もあるのかもしれないが、推理小説に記載する分析としては、やや強引な面が否めない。
スターウォッチャーが素を出した時点で「大嫌いな嵯峨島をからかってやりたかったんだよ!!」とでも言ってくれたらとても納得がいった。
また、『ユミの純白のダウンパーカーの、背中一面が黒ずんでいた。コテージの壁に釘があったからそこにかけた。』という描写に対し、
コテージの壁に釘がある描写はあるが、カンテラ等の登山道具をかけるためにある。ということは、カンテラ・ピッケル・ロープのいずれかを外し、そこにダウンパーカーをかけたことになる!!こいつの部屋にあったピッケルを使ったんだ!!
…と推理していた。
爪が伸びていたので、犯人からは除外されたが、パーカーが黒ずんでいたことに対する対するフォローは特になかった。
コテージの壁が黒ずんでいることへのヒントなのかもしれないが、少し腑に落ちない。
次に、煤で汚れたコテージの壁をきれいにする、というトリックが可能かどうか。
・雪を水にしてみると分かるが、雪解け水は水道水などと違い格段に汚い。
・名探偵は「拭く物は岩岸さんのバッグからタオルや衣類を失敬したんでしょうね。」と推理している。(殺人を行ってから壁を奇麗にする必要性に気づいたので、この推理は当然と思われる。)
つまりスターウォッチャーは、「汚い水で、布を使用して壁一面を奇麗にした」と言える。
(コテージにはやかんはあるが、洗面器のような「布のすすぎ」が出来そうなものが存在しないため、タオルも複数枚必要になったと思われる。氷点下の屋外ですすぎを行ったのなら別だが)
岩岸の私物から複数枚とはいえタオルがなくなっていることが露見する可能性は低いが、煤で汚れた布はどうするつもりだったのか。
コテージに水道はないため洗い流せない。屋外の炊事場も凍結しているため使用不可。雪で洗い流そうとしても汚い雪解け水では洗い流せない。管理棟の厨房若しくは浴室の水を使用する他ない。
しかし、夜は財野&和夫が寝泊まりしている管理棟に入るのは危険性が高い。朝もスターウォッチャーは管理棟に重役出勤している。
つまり、スターウォッチャーはこの時点で「煤で汚れた布」を所持していることになる。
この段階で警察が各人の持ち物検査を行った場合、他のコテージと違い岩岸の壁が奇麗なことから、この重要物件を持っているだけで犯人にされてしまいそう。
警察の介入を恐れたため、壁を奇麗にしたはずだが、別の重要証拠を作ってしまった形となっている。
2日目の朝の時点でスターウォッチャーが「煤で汚れた布」を持っていてはいけない。
・岩岸の私物を確認した際にやけに薄汚れたしめったタオルを見つける
・スターウォッチャーを朝風呂に入れさせ、風呂でタオルを洗い流す時間を与える
のどちらかの描写がないと、スターウォッチャーの愚かさが際立つだけではないだろうか。
それにしてもスターウォッチャーはものすごい。
初日は電車→車移動。夜中12時過ぎから殺人。それから雪かき&壁一面の拭き掃除。
2日目は自分が犯人であるにもかかわらずわざとらしい頭脳労働。宴会が終わるまでコテージから管理棟の監視を続け深夜3時過ぎに殺人。
3日目は吹雪の中を1時間近く歩き、推理を披露。最後は投げ飛ばされる…
しかも、心の中ではゴミのように思っている相手とも積極的におしゃべりし、常に営業スマイルを忘れない。
…超人的な体力・精神力と言えるだろう。
作者のト書きにより、名探偵を誤認させる取り組みはとても画期的で面白かった。実際、最後の最後までスターウォッチャーが探偵役だと思っていた。
このトリックが面白かっただけに、細部の詰めが甘い点がとても残念。
読んでよかった度 :☆☆☆☆
もう一回読みたい度:☆☆
スターウォッチャーシリーズの第2作が読みたかった度:☆☆