あらすじ
不気味な逆五芒星の中央に捧げられた二重鍵密室の首なし死体。邸内を徘徊する西洋甲胄姿の亡霊。資産家一族の住む大邸宅で、黒魔術のミサを思わせる血みどろの惨劇が続く。当主はなぜ警察の介入を拒むのか。そして、「呪われた遺言」に隠された真実を追う名探偵・二階堂蘭子にもついに殺人者の魔の手が迫る。
(byアマゾンのページ)
地獄の奇術師は個人的に残念だったが、一作品で全体の印象を決めてしまうのももったいない気がするので、二階堂蘭子シリーズをもう一冊読んでみた。
※以下ネタばれあり
気になる点を箇条書き
・密室トリックについて
どのように密室を作ったか、というハードの部分と
何故密室を作ったか、というソフトの部分
の融合が密室トリックを面白くさせるのではないだろうか。
心理的な盲点と機械トリックの組み合わせにより美しい密室が完成したが、
「早くから死体を発見されたくなかった」という理由で作るには大掛かり過ぎるのでは?
使用人の動きは操れるだろうし、家族の中にもすすんで被害者の部屋に行く人はいなそう。(唯一いるが、犯行時には○○な状態だったし)
密室を作る事前準備を行う際に発生するリスクと、特定の時間に部屋を訪ねてくるリスクとを比べたら、事前準備の方がはるかにリスクが高いはず。
トリックは面白いものなだけに残念。
犯人に明確な理由がなく作られる密室は「自己顕示欲による密室」「偶然出来た密室」と同じようなものはないのか。
・入れ替えトリック
首を切り取られるといえば、島田荘司の名作が思いつく。
密室トリックを絡めていたが、首を切った理由や死体の入れ替えトリックは島田荘司のオマージュというかインスパイアというか…
(作中の時代ではまだ発表されていないので、島田荘司の名作については名探偵も言及しない)
そもそも、”悪魔的な知恵”により入れ替えトリックを成功させ、顔を焼いてまで犯行を成し遂げたけれど、その焼いた顔をよく見たら正体が分かる
…ってどういうことだ!!!
顔を焼いた意味がないじゃないか!!!
入れ替えトリックを行うメリットは
○死んだと思わせて、今後の犯行を楽にする
○死んだと思わせて、自由の身になる
といったところだろうか。
実行犯は別だし、最後は燃え尽きてしまうし…
密室トリックの時と同じ、「何故入れ替えトリックを行ったのか」か納得のいく理由が書かれていない。
残念…
・長い
「犯人を隠すなら文字数で隠せ」
なんだろうか。
月光の滴に関する部分と、地方警察の皆様の活躍っぷりは全部省いても良かった。
月光の滴は、「悪魔」を書くために必要な部分なのだろうが、「悪魔」はそんなに必要だろうか?
動機の部分を「悪魔」的なものに多少関連性をつけるとするならば、それは推理小説なのか怪奇小説なのか分からない。
しかも、作中に書かれていることだけで月光の滴に関する全てを推理するのは不可能。
宝石の話を読みたいときは、宝石関連書籍を読みます。
また、地方警察の皆様の描写の最後には
「要点としてまとめられた」の一文の後、分かったことが箇条書きで書いてある。
地方警察の皆様の最後の締めが箇条書きならば、最初から捜査報告書として分かったことだけ東京に送ってもったという形で書けば良かったのでは…
美しいトリックはあるが、何故そのトリックを選んだのかについての必然性が弱い。
犯人、もうちょっと上手いやり方はいくらでもあっただろう…と思う。(一族への恨みなら、最初からみんなまとめて毒殺するとか)
地獄の奇術師同様、様々なものを詰め込み過ぎて方向性を見失っている小説としか受け止められない。
読んでよかった度 :☆
もう一回読みたい度:
ここまでくれば人狼城も読んでみようか度:☆☆☆