南座の顔見世千秋楽。昼の部の松本幸四郎丈・市川染五郎丈襲名の『連獅子』。息もできないほどの崇高さ、狂気にも近い神々しさに、ただ涙があふれた。すごいとか綺麗とかではなく、おそろしい、畏れ多い舞台だった。以前、幸四郎丈とお話した際に、神の存在を信じられるかどうかの壁にぶつかりたい、というようなことをおっしゃっていたが、まさにそういう壁を越えられたのではないか。
その後は片岡仁左衛門丈の『封印切』。忠兵衛・梅川の恋する二人の愛嬌に、秀太郎丈のおえんの情愛、大阪らしいやわらかな品の匂い。八右衛門が「金がないのは…」のキメ台詞の後、梅川が泣く、あの完璧のタイミング、あの劇作の見事さが歌舞伎。成駒屋と違って松嶋屋はみずから封印を切る。あの決死の表情は生涯忘れまい。今思い返しても脈拍が乱れる。すごいものを見た。