茨城の教育委員の、障害児の出産にまつわる発言について | 人間の大野裕之

人間の大野裕之

映画『ミュジコフィリア』『葬式の名人』『太秦ライムライト』脚本・プロデューサー
『チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦』岩波書店 サントリー学芸賞受賞
日本チャップリン協会会長/劇団とっても便利

障害児の出産「茨城では減らせる方向に」 教育委員発言
http://www.asahi.com/articles/ASHCL5QG1HCLUJHB00N.html?iref=com_rnavi_srank

小学校の時、クラスにダウン症の友達Nくんがいました。先生は彼を中心にクラスを作ってくれました。三年生の夏、水に顔をつけるのも怖がっていたNくんと浅い方のプールで水遊びから始めて、ある時にスチロールのボールを深い方に投げると、Nくんは泳いで取りに行ったーーそのときはみんなで大喜びしました。夏が終わるまでにNくんは25メートル泳げるようになっていたのです。
高いところを怖がったNくんでしたが、社会見学で訪れた高槻市役所の屋上からの眺めをNくんとも一緒に見たいと思い、みんなで彼を囲んで、少しずつ移動しました。端にたどり着いたときに円陣をほどいたらNくんはもうこわがらずに気持ちよさそうに景色を眺めたーーそんな毎日の生活で、時間はかかるけどみんなで助け合って素敵なことを共有する大切さを知りました。Nくんのおかげで、どれだけ大切なことを学んだか。人間が生きていくうえで、どうしても不可欠なものをどれだけ教わったことかわかりません。
この長谷川氏は、百歩譲って「これまで障害者についてまともな認識を持っていなかったが、支援学級の現場を見て共に生きる大切さがわかった」とか言うのならまだ理解できます。それが、現場を見た結果「減らすべき」と言ったのは大暴言です。撤回したそうですが、即刻辞職すべきです。
長谷川氏のような人は今も昔もいます。本当の問題は、その発言を知事が一度は容認し、いまだ公職につけたままにしていることです。これは本当に恐ろしいことです。いまや我が国は、優生思想を口にしても公職についたままでいられる国にまで堕ちたのです。安易に「戦前と同じ空気」などと言いたくはないですが、それ以外に表現が思いつきません。