天符経講義第2回です。
第一章 天符経とは
一万年の時空を超えて受け継がれし「最初の文字」
天符経が伝える宇宙の真理は、ある日突然この地上に現れたものではありません。その源流を辿れば、一万年という悠久の時の彼方へと至ります。
まだ文字という文明の利器を持たなかった太古の時代、人々は宇宙の理法を単なる知識としてではなく、生きた叡智として受け継いでいました。それは師から弟子へ、親から子へと、厳密なる口伝によって受け渡され、人々の記憶と霊性の中に脈々と保存されてきたのです。
そして今からおよそ六千年前、神市倍達の時代を迎えます。このとき、それまで口伝によって守られてきた宇宙の真理は、韓民族最初の文字とされる「鹿図文字」によって、初めて地上にその姿を刻むこととなりました。
鹿図文字とは、その名の通り、大自然を自在に駆ける鹿の足跡を原型として生み出された文字です。そこには、自然と生命を鋭敏に感じ取る古代人の豊かな感性が息づいています。文字とは本来、単なる記号ではなく、天地の秩序と生命の躍動を映し出す象徴でもあったのです。
さらに時代は流れ、今から四千四百年前の檀君時代に至ります。この神聖なる文字体系は、「篆書(てんしょ)」へと姿を変えて受け継がれました。篆書とは、現代に用いられている漢字とは本質を異にするものです。それは文字が成立した原初の息吹を色濃く残した、いわば「原始漢字」とも呼ぶべき純粋な象形文字でした。形は変わっても、その内に宿る真理は失われることなく継承されていきます。
そして新羅時代。類まれなる学識と洞察を備えた大学者、崔致遠(チェ・チウォン)先生によって、この古き聖なる叡智は高雅な漢字へと翻訳されました。もしこの時代に適切な形で記録されることがなかったならば、天符経は歴史の闇の中へ埋もれていたかもしれません。しかし真理は絶えることなく守られました。幾度となく文明が興亡を繰り返し、歴史の荒波が民族をのみ込もうとした時代にあっても、その核心は失われることなく受け継がれたのです。
こうして天符経は、一万年という気の遠くなるような時空を超え、今日を生きる私たちの前にその姿を現しています。それは単なる古文書ではありません。人類最古の記憶の中から届けられた、宇宙創造の原理そのものを記した叡智の継承なのです。
つづく
■素空慈先生の著書











