海斗くんに姉を紹介された時、わたしはショックで立ちつくした。海斗くんはそれを予想していたようで、落ち着いてわたしが平常にもどるのを待った。

 

日曜日、海斗くんとランチ。海斗くんはわたしの家まで、わたしを迎えにきた。ご近所さんなのだ。

それで海斗くんの家にあがり、まず海斗くんの二人の姉を紹介された。

海斗くんの姉は結合双生児だった。わたしはわたしの母についてSNSに書きこまれたことを思いだした。

(中絶手術をさせるのは)不幸な人間を作らないため。

それを書いた人の気持ちを理解したような気になった。

その二人の姉の部屋にはぬいぐるみなどがたくさんあった。乙女チックな部屋だった。

二人の姉にわたしは自己紹介をした。名前を言っただけだけど。

海斗くんはわたしが落ち着くまで待ってくれた。今度は母親を紹介すると言う。

キッチンへ案内された。明るい対面式キッチンだった。わたしたちはテーブルに座り、きれいな女性がキッチンで働いていた。それが海斗くんの母親だという。だが、その人は海斗くんを「坊ちゃま」と呼ぶ。わたしはどうしたものか、わからなかったが椅子をすすめられて座った。

「ぼくの母は自分がロボットだと思っているんだ」と海斗くんは言った。ロボット、わたしはぎくりとした。わたしはロボットになりたいと思わなかったか。

そのランチはわたしにとっては、豪勢なものだった。とてもおいしい。わたしたち二人が食べるのを海斗くんの母は立ったままわたしたちを見ていた。本当に自分がロボットだと思っている。いや、本当にロボットなのではないか? と思われるほど、海斗くんの母親はわたしたちの食事の間、立ったまま動かなかった。食べ終わり、海斗くんは部屋に案内してくれた。

海斗君の部屋は高級ホテルの部屋に学習机と本棚を置いたというような、広い部屋だった。ホテルの部屋にあるようなテーブルをなかに置いて対面するソファもあり、すすめられてソファに座った。

海斗くんはそれでタブレットにたくさんの赤ちゃんや子供の写真を見せてくれた。みんな、自分の子供だという。

海斗くんの子供? わたしは海斗くんのその説明がわからないというか、おかしいと思った。そして、みんな健康で知能が高いと言う。

わたしは自分の知能が低いと言うと海斗くんは、それはわたしのことを清浄主義者に誤魔化すための嘘だと説明した。

計画外出生児を殺せと主張する清浄主義者、それをなぜ清浄主義と言うのか分からなかったが、優性主義者に近いという。そして、世の中が計画外出生児によって牛耳られるのをよしとしないグループなのだという。ママが有名なわたしにはそれで命の危険があった。それでわたしを守るためにわたしは知能が低いということにされた。海斗くんにはそれをしたのが誰だったのか、なにのコンピューターの結論なのかはわらからないが、わたしを守るためにわたしは知能が低いことにされたということだった。それで、わたしの子だという子供の画像をタブレットに映した。わたしが子供なんて知らないと言うと、海斗くんはCCA1に教えられたことだと言って説明してくれた。わたしが毎月のように手術をするのは卵子の摘出のためだと。そして、わたしは医者や看護師が言っていた「さいらん」という意味が分かった。卵子の採取、その「採卵」だった。

「きみは親権放棄書にサインしていないの?」

「わたしはそんなもの、知らないわ」

「そうか、きみは知能が低いことにされているから」

 

そして、なぜ彼がわたしたちの子供だという写真をわたしに見せたかというと、それでCCA1はわたしたちの愛情が深まるはずだからと言ったからだと言う。

そして、わたしは海斗くんの異母兄弟だという画像を見せられた。みんな奇形児だった。海斗くんの父親はそういう子が好きで複数の愛人に産ませているという。だから、海斗くんが正常に産まれたのが残念だったと言われたそうだ。

「狂っている」とわたしは言ってしまった。

「そうだね。だけど、自分の会社を自分が死んだら、ぼくに任せることを考えているそうだ。あいつがくたばったら、きみにお姫様のような暮らしをさせてあげるよ」

そう言われてもわたしはうれしくなかった。よそよそしくなってしまったかもしれない。

「ぼくを嫌わないで。

それは男が精子を採取するって、キタナイことだよ。

だけど、あの男は金持ちなのに姉を普通の体にするお金をださないんだ。

だけど、ぼくがお金を用意するためには精子を売るしかないんだ」

海斗くんは泣き出した。

 

海斗くんに冷淡な父親。

自分がロボットだと思うようになった心を病んだ母親。

自分では歩くこともできない、結合双生児の二人の姉。

海斗くんには支えてあげる人が必要だった。だけど、海斗くんを支えるには、わたしは幼かった。

わたしにできたことは、海斗くんが泣き終わって落ち着くまで手を握ってあげていることだけだった。

・・・おしまい・・・