絵本・『かっぱのすりばち』によせて | つながっていこう~オンライン版絵本で支援プロジェクト【公式ブログ】

8月1日のオンライン絵本会で『かっぱのすりばち』を読ませていただきました。千葉のひろこです。

この作品は、私の友人、藤原あずみさんが絵を描かれました。

あずみさんとは、以前お話会を一緒にしていました。

そして、再話の廣田弘と子さんの埼玉のブックカフェにも伺い、わらべ歌を勉強したこともありました。

そんな、うれしいご縁と繋がり…に感謝です。

 

『かっぱのすりばち』のお話は福島県塙町片貝川で生まれたそうです。

今回、読むにあたり『かっぱのすりばち』への想いやエピソードを、あずみさんが送ってくださいました。

 

 

      

  廣田 弘子(再話), 藤原 あずみ(絵), 佐藤 修(原作), 菊池 トヨ(語り) 

一声社 出版年2009/2

         藤原あずみ   

 

 『かっぱのすりばち』のお話は、片貝小学校の校長先生をされていた佐藤修さんが創作され、地元の語り部・菊池トヨさんによって語り継がれてきました。

埼玉在住の保育園の園長であり詩人でもある廣田弘子さんが、トヨさんの語りを聞いて「このお話を絵本にして子どもたちに届けたい」と強く心に思ったのが、絵本誕生のきっかけです。

 

 

廣田さんはご自宅でブックカフェ「ちびと山賊の家」を開いていました。お話会やコンサート、わらべ歌など楽しい催しがいっぱいの会に、私も何度かお邪魔させて戴きました。そのご縁で絵を頼まれました。その時点では、頭の中にはぼんやりしたイメージしか浮かんではいませんでした。

 

 

しばらくして、廣田さんから「ぜひ、片貝川を見て欲しい。トヨばあちゃんに会って欲しい」と熱心に誘われ、塙町に取材旅行に行きました。

その旅の印象は、そっくりそのまま、絵本の中の風景になっています。片貝川の遊歩道は、滴るような深い緑に包まれていました。

川の中の岩も緑、水の流れさえ緑色に染まっていたような気がします。そして、すりばち石は川の中にどでんとあり、まん丸いくぼみには水が溜まってきらきら光っていました。

 

 

かっぱのすりばち石 作者:藤原さん(左)、廣田さん(右)

 

水量が多く冷たい流れでしたが、廣田さんは「落ち葉がたまってるから掃除してくるね」と、靴を脱ぎじゃぶじゃぶと流れを渡り、すりばちの中をすっかりきれいにしました。澄んだすりばちの水の中に、木漏れ日が落ち込み、木々の緑が写りました。その時のスケッチが中表紙と最後の絵になりました。遊歩道を縁取っていたヤマアジサイのかわいい花とまん丸いつぼみは、表紙の絵を飾ってくれました。

 

その晩、湯岐(ゆじまた)温泉でトヨさんにお会いして、たくさんの昔話を聞きました。どこからどこまでが昔話で、どれが世間話かわからないほど、淀みない温かな語りの渦の中に巻き込まれました。

もちろん「かっぱのすりばち」も語って戴きました。トヨさんは、ずっと無口に畑仕事や山仕事をして来て、70歳過ぎてから体からお話があふれて来たのだそうです。「でも、山にいても畑にいても、しゃべっていなくても頭の中はいつも賑やかだったな」と話してくださったのが印象的でした。

 

さて、絵本作りは始まったものの、肝心の出版社探しに難航しました。

お話の中で、死が何度も出てくるので、子どもの絵本には不向きでは? と良いお返事が戴けないのです。

でも、一声社さんが名乗りを上げてくださいました。

すごくほっとして、ひと山越えた気分でした。けれど、絵本のゲラが出来上がる直前、思いがけないことが起こりました。陰になり日向になりして応援してくれた廣田さんのご主人「山賊さん」が急死されたのです。ゲラを手に葬儀に駆けつけ、廣田さんと手を取り合って泣きました。山賊さんを慕うたくさんの人が葬儀に訪れ、駅から葬儀会場まで長い長い列が続いていたのを覚えています。

 

絵本ができた時、中表紙の右ページのすみっこに「さんぞく、ほらえほんができたよ、ありがとう!」と小さく文字を入れてもらったのはそんなわけなのです。

 

山賊さんが空から見守っていてくれたおかげでしょう。絵本は無事に出版され、絵本は人の輪をどんどん広げて行きました。

原作の佐藤先生や、とよさんはもちろんのこと、かんきち煎餅を作って下さった塙町の煎餅屋さん。

 

そして、「かっぱのすりばちのうた」を作ってくださった島筒英夫さんもそのひとり。島筒さんは目が不自由ですが、見事に片貝川の緑の川辺を歌で再現してくださり、聴いていると緑に染まった風景の中で遊んでいるような懐かしい気分になります。

 

そして、絵本のかんきちをアニメ化して生き生きと動きまわらせてくれたアクラアニマルの豊永さんたち。

絵本の中では、ページ数の関係もあり、かんきちと母ちゃんが触れ合うシーンがないのです。そのことが、とても心残りだったのですが、アニメの中では抱っこにおんぶに、たっぷり母ちゃんに甘えているかんきちです。ぜひ、アニメのかんきちにも出会ってくださるとうれしいです。

 

絵本を読んだたくさんの方から感想を戴きました。読んでくださったお一人お一人が、それぞれ、メッセージを受け取ってくださったことが励みになりました。子どもに死を語ることの難しさも、「子どもはあいまいなものを好みません」と書いてくださった、ある幼稚園の先生の感想で吹っ切れました。子どもたちはちゃんと受け止めてくれるのだと思いました。

 

決して楽しいだけの話ではないけれど、子を奪われた母親の悲しみ。その悲しみの中でも、村人を赦した母ちゃんの深い愛、いろいろな思いを子どもたちが受け止めてくれたらうれしいです。

 

年を経て、震災、原発事故があり、そして今はコロナ禍に見舞われています。心の中に、哀しみや怒り、疑いや恐れが忍び込んで、ささやかな喜びの火を消されそうになる時も多々あります。

 

 そんな中、オンライン絵本会という新しい方法で、『かっぱのすりばち』を取り上げて戴くことになりました。新たな輪を広げて戴くことに、感謝の気持ちでいっぱいです。片貝川の岸辺を染める滴る緑の雫が、たくさんのひとの心にしみわたりますように。