感性を磨く絵本  ―― 絵本作家・手島圭三郎講演会に思うこと | つながっていこう~オンライン版絵本で支援プロジェクト【公式ブログ】

たかたかの住む北海道も、最近ぐぐっと雪が溶けて、土が顔を出してきた!待ち遠しかった北国の春🌱✨

先日、札幌の仲間たちと主催したリアルイベント、絵本作家・手島圭三郎講演会『北の自然と私の絵本』を無事終えることが出来た。
版画デザインのファイル購入者への動画配信も、本日からの公開!
ちょうど一年前に企画していた講演会だが、コロナ禍で二度延期、今回は背水の陣を期したリアル会場&動画配信観覧のハイブリッド視聴体制を取って開催させていただいた。先生へのリスクも考慮して、数々の作品を生み出したご自宅のアトリエから中継したことも、ファンとしてはたまらない魅力あふれた企画になったように思う。

今年で86歳の手島圭三郎先生。
今春40作目が出版予定だが、年だから絵本はこれでお終いと決めているとのこと。しかし、作品を拝見しても版木の彫り痕を拝見しても、大変力強く、お人柄のせいか全くおじいちゃんっぽくない。あたたかなお人柄の伝わるお話上手で、明るく、笑いを取ることを忘れないユーモアあふれる先生だ。益々好きになってしまう!

   💛

ご講演は、先生の生い立ちから今に至る来し方が丁寧に語られた。それは、先生の情熱と作品の根底を揺るぎなく支え、流れるものであるからだ。生まれ育ったオホーツクの大自然、動物たちとの共生、愛する家族との思い出・・・。

芸術家には渡りに船だった高度経済成長期、北海道の作家たちがこぞって東京だ、世界だと浮き足立った流行りに乗ることなく、先生は永遠に尽きないテーマを描き続けたいと、絵筆から彫刻刀に持ち替え、テーマを北海道の自然と擬人化しない動物そのものを描くことに決めたそうだ。
この時の選択がなければ今の自分はない、そう決断して本当に良かったと、ご自宅に打ち合わせに伺ったとき、しみじみ仰っていたのが印象的だった。

どうしてそのような選択・決断をしたのだろう。
先生は何を大切にしたかったのだろう。


講演会の中で先生の作品を朗読させていただいた。
自ら選んでくださった2作品。朗読者もそれぞれ先生のご指名という光栄なミッションだった。
主催団体の代表五十嵐さんは
『しまふくろうのみずうみ』
(先生の処女作、日本絵本賞受賞)を、
私は
『おおはくちょうのそら』
(ニューヨークタイムズ選世界の絵本ベストテン、ドイツ児童文学絵本部門ノミネート賞)である。

この2作品のチョイスも、何故だろうと思っていた。
近年出している売りたい絵本ではなく、1作目、2作目の有名作品なんだ・・・と。



   
  『しまふくろうのみずうみ』
  手島圭三郎 絵と文
  絵本塾出版 1982年



   

  『おおはくちょうのそら』
  手島圭三郎 絵と文
  リブリオ出版復刊 2005年 (初版 福武書店 1983年)



私が朗読した『おおはくちょうのそら』は、白鳥の白と明るい空色が印象的な美しい色調の作品である。南風に乗って帰る、月夜に飛ぶ、星をガイドに飛ぶ、などのオオハクチョウの生態をベースに後半部は先生の創作だそうだ。

私はオホーツク・知床斜里町の住人なので、この絵本の情景がとてもよくわかる。
住んでいた音更の十勝川千代田堰堤や、今の我が家にほど近い濤沸湖に毎年白鳥が飛来するからだ。
優雅な姿にうっとりするのもいいが、白鳥の老若男女なりふり構わぬパンの争奪戦が面白くて、我が子たちが小さなときはよく足を運んだものだった。
子どもに分け与えることなく、すばしっこい大物が上手にパンを次々GETする。要領の悪いのや小さいのはじれったいくらいいつまでもパンが食べられない・・・優雅な顔していてもやはりそこは野生の弱肉強食の世界だし、そんな水面下の必死なバタ足は、水上の姿とのギャップが大きく、それも生を愛でるに微笑ましい。ああ、生きるってこういうことなんだと思うのだ。

また、先生の版画に乗せる手島ブルーは、まさしくオホーツクの空の色だ。優しく明るいブルー。札幌の空とも故郷の十勝の空とも違うオホーツクブルー。
雪原に反射するまばゆい光、南風に押し流される白い流氷と海のコントラスト、焼き切られるような茜空、浮かぶ雲の影・・・。福寿草が顔を出す頃の土の匂い、春の日ざしの包み込まれるような柔らかさと清々しさ・・・。

この絵本のページを1枚1枚めくるたびに、その情景の風の匂いや光の眩しさ、白鳥の鳴き声が、私の感性の記憶を通じて呼び覚まされる。
先生も仰っていたが、一旦自分を空っぽにしてから、自分の感性のフィルターを通したクリエイトをすると言うこと…….私もその様なあり方の声と表現で、作品世界を届けられる朗読人になりたいなと、いつも思っている。

2作品の朗読をお聴きくださった後、実は先生の頬には涙が伝っていたのだと、中継したスタッフが教えてくれた。
先生が、作品が、とてつもなく私には尊い。

 

 

先生はご講演の最後に必ず仰る言葉がある。
「人生は限りなく美しい。それを発見できるか、それは感性次第」
だと。
自分の豊かな人生に気づくのは、感性である。
今すぐタメになる絵本、知性を与える絵本、ではなく、自分は人間の感性・美しさを感性の領域で表現したい。自分の作品は感性を呼び覚まし、磨く手助けになれるといい
と仰る。

感性・・・
これからは個と感性の時代だいう。

そう、その目には見えない漠然とした○○な感じ~、
五感で感じる素直な気持ちは、大切ってこと。
知性や損得に頼らない、
何者でもない自分自身を信じ切ること。
その感受性とかぎ分ける直観が人生を豊かにするってこと。
見栄えの良さ、中身のない小手先の虚飾は、時間とともに色あせ消えてていくのでしょう。
いつも自分の原点を見つめ、自分の宿命を愛し、大切にしてしてきた手島先生のことばは滋味深く、
そこから自分が何を気づき、実践できるのかな?

絵本は・・・
ホンモノを見極める目で手に取り、子どもたちに渡していきたいな。

 

感性に触れる、感性を磨く素晴らしいと思える皆さんのオススメ本を、よかったら教えて下さい(^^)