ピアソラを観る!――映画の中の「ピアソラ」―― | 音快計画-ヴァイオリン弾きのお仕事とはッ?!-

ピアソラを観る!――映画の中の「ピアソラ」――

 少し前のことになるのですが、ちゃんと観てます、『ピアソラ、永遠のリベルタンゴ』。

 僕にとっては、素晴らしい映画でした!

 

 最初に始めたのは、もう10年前ですか……。

 ピアソラの人生を取り上げて物語(ノンフィクション)を書いて、合間に演奏を挟んだ、『その名は、ピアソラ。』、『異邦人ピアソラ』(その名は…をベースにした別企画で、映像をつけていた)、というものを作ったのは。「わかる」ことを台本で伝え、感情は音楽で表現する、という出し物です。

 作っていく中で、どうしても知りたくなったことは、ピアソラはどういう人だったのか、ということです。それがある程度わからないと、共感できるものを作るのが難しい。

 

 調べるとすぐ、人生の概略はわかります。出来事や、誰と会って、どこでどんなコンサートをやって、どういうレコードを出して、とかです。

 しかしそれは、いわば履歴書のようなもので、それではピアソラがどういう人なのか、まったく分からない。どういう感じ方をして、どういうリアクションをして、とか、そういうことが知りたいのです。ちょっとしたエピドードまでは知ることができます。でもそれでは、本当に面白いことは、推測の域を出ない。つまり、書けない。

 知りたいのは、話していたり、動いていたりする時の表情。文字として残っている言葉には、実は会話の流れの中での一言だったり、時には嘘や冗談も混じっているでしょうが、顔を見ながらだったらある程度分かります。

 

 そんなことがわからなくても、もちろん音楽から分かることは多いです。

 台本を書いている時に、なぜそんなことをしたのか、どうしても分からないところがあって(かなり)、その当時に録音されたものを聴いて、気持ちややりたかったことなんかを推測するしかない!ということが結構ありました。これが不思議と、何か気がつくことがあるのです。

 でもこれは、台本には反映できないので(根拠がないので)、悶々とすることになりました。普通にライブのMCでなら、喋れるのに!

 

 この映画は、ピアソラの息子ダニエルの視点を基にしている風に作られていて、彼が観ていた家族の姿、プライヴェートのピアソラの表情がたっぷり映し出されていました。そして、ピアソラの伝記を書いた、娘ディアナのことも。

 ピアソラが、なぜ家族を捨てたのかは、彼以外の他の誰にも結局分からないと思うのですが、最大の転機であったことは間違いない。書物からの情報では、まるでタバコをやめるかのように家族を捨てているようです。でも、そんなはずがないことだけは、その前の色々のエピソードを知っていると想像できます。

 この部分と、もう一箇所、どうしても知りたかったのは、家族を引き連れてニューヨークに移住、どん底にいるピアソラ。それも、最愛のお父さんまで祖国で亡くなってしまうのです。これもダニエルによって、当時のことが語られていて……。

 

 そういう視点の映画なので、少しは履歴書的なことは知っていないと、わからないことが多い映画じゃないかろうかとは思います。でも、例えばピアソラが若い頃、母国でものすごく叩かれていたこと(長いこと……)、成功したのは50歳を超えてからだということ、くらい分かっていると、これはもう、面白いですよッ!

 そうそう、ピアソラ、人生初録音、ニューヨークに住んでいた10歳の頃のもの、あるのは知っていましたが、ついに聴けました!

 

 東京では、渋谷のル・シネマでしかやっていないのですが、案外、色々な県で公開されているようです。ぜひ!

https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=piazzolla

 

 余談ですが、演奏の映像は、エレクトロニコ(ピアソラが一時期組んでいた、シンセサイザーなどの入ったユニット。息子ダニエルがメンバーだった)が多めでした。あまり観たことがなかったので、これも面白い!